新次元エヴァンハルヒの世界


The world of new-dimensional Eva'N'Haruhi


 決して物理が好きなわけではないが、この宇宙が十一次元で構成されているということをご存じだろうか。
 もっとも十一次元というのも、明日になれば十二次元でしたとか言い出す輩が現れるかも知れず、本当に正しいのかどうかは分からない。でも学校では直線が一次元、面が二次元、立方体の世界が三次元、それに時間の概念を加えたのが四次元というのを習ったような気がする。しかし世の中の偉い物理学者さまは、それ以外に七次元も余分にあるというのだから、全くもって宇宙とはどのような時空間で実存しているのか想像すら出来ない。
 それでは平行宇宙という物をご存じだろうか。ただでさえ複雑な宇宙を益々難解にしている学説で、一般的にはパラレルワールドという名称で呼ばれている。我々が生活する世界と同じ世界が宇宙の別のどこかに存在するという理論だ。SF小説の中でのお話だと思われていたが、どうも現実にあるらしい。俄には信じられないが、頭の良い宇宙物理学者さまは、その存在を探すべく今も日夜研究に邁進している。全くご苦労様なことだ。
 平行宇宙にはレベルがあり、同じ宇宙の果てに同じ生活をする世界が存在するパターンがレベル1。またこの宇宙外に同じような世界が存在するパターンがレベル2。その他にも色々なパターンがあるという。
 学者さまによると宇宙というのは、シャボン玉が細胞分裂するように幾つにも拡散し、その中の物も同じように複製されていく。ちょうど細胞の中のDNAが分裂により複製され、無数に増えていくのに似ている。つまりDNAの一つ一つが我々であり、複製された数だけ自分の分身が存在することになる。
 そしてそのシャボン玉宇宙同士が、別の次元により繋がっているという。縦に繋がっているのが六次元で、横が七次元とかそんなことまでは知らないが、どうも宇宙というのは我々凡人の思考の範疇を越えた物のようだ。
 こんな話を信じるとか、理解するとかいう以前に、全然関心がなかったわけだが、まさか自らの身にそれが降り掛かってくるは思いもしなかった。しかし自分が経験した後でもそれが本当だったと言い切るのは難しい。
 何故なら宇宙とは、それ程未知なる存在なのだから・・・・・・。


 宇宙開闢から一三七億年、無数に存在する銀河の一つである天の川銀河。その辺境に位置する太陽系第三惑星地球。宇宙全体から見ると無数の星の一つでしかない。しかし生誕から四○億年余、太陽や他の惑星との奇跡的なバランスにより、生命の誕生を迎えた稀有な星である。
 地球では原始生物の誕生から高等生物へと進化する過程で様々な出来事が起こり、多くの生物種が絶滅し、そして新たな生命がこの星に生まれてきた。
 約二万年前、人類の先祖が地球に現れ、知識という武器を手に入れた。それが生物としての進化なのか、神成る者の意図でモノリスに触れたことによって生じた物なのかは誰にも分からない。どんな形にせよ、人類は知識を手に入れたことにより、地球上に存在するあらゆる生物を凌駕し、今日まで君臨してきた。
 地球の人口が六十億人を超えた西暦二○○○年九月十三日、突如として南極で発生したセカンドインパクトという大爆発は、人類史上最大の大災害だった。世界人口の半数もの人が死滅し、地形を大きく変化させた。
 弓状列島であった日本国も大きく形状を変え、幾つかの大陸に分断された。かつて関東平野に存在した首都東京は水没し、過去の地図で芦ノ湖北岸付近の高地に位置する場所が、第三新東京市と呼ばれて現在の日本国の首都になっている。
 セカンドインパクトは、人類が神との融合を図ろうとして失敗し発生した人災だった。それに懲りず人類は新たな神を創造しようと暗躍した。第三東京市の地下空間には今も生命の起源の一つであるリリスが保存されている。
 使徒という人類に対敵する存在が、その生命起源を手に入れようと攻撃を仕掛けてきた。もしも使徒がリリスを手に入れると、今度はサードインパクトが発生し、人類は完全に滅亡してしまう。
 国連直轄の特務機関ネルフは、使徒の研究・殲滅を目的として設立された。ネルフは汎用人型決戦兵器・人造人間エヴァンゲリオンを製作して戦い、十七体の使徒を全て殲滅し、サードインパクトを回避することに成功した。本来であればそれで争いは終わり、地球に平穏が訪れるはずだった。しかし平和な時間は短く、人類に新たな脅威が現れた。
 使徒の数倍も大きい巨大な青白い人型の怪物が突然出現して、第三新東京市を攻撃し始めたのだ。その巨大な怪物が何なのか誰にも分からなかった。三体のエヴァンゲリオンの力を結集して、何とか怪物を殲滅することが出来た。
 使徒殲滅により解体される予定だったネルフも、新たな敵が現れたことにより存続が延期された。今後は新たな敵の研究と、その殲滅方法がネルフに課せられた使命となった。
 その頃突然、別次元から知的生命体がゼーレの幹部達の前に現れた。赤い光球に包まれた知的生命体は、謎の怪物の正体は別次元から来たのだと告げた。それは神の創造した《神人》という生物で、神のフラストレーションが溜まると、宇宙のあらゆる場所に現れて破壊を繰り返すのだという。
 知的生命体は、宇宙の創造主が宇宙人を必要としていると言い、地球に生息するクローン人間をその次元宇宙に送ってくれないかと懇願した。そうしないと創造主は神人を作り出すだけでなく、宇宙全体を破壊し、新たな宇宙を創造しかねないとも・・・・・・。
 ゼーレの幹部は知的生命体を”死海文書”に記述されている神の使いであると考え、この創造主の存在を信じた。そして”人類補完計画”を完遂する為に知的生命体の要求を呑むことにした。
 地球上でクローンとして生きている人間は綾波レイだけだ。ゼーレは、ネルフ最高司令官の碇ゲンドウを呼び寄せ、レイの提供を求めた。当初躊躇していたゲンドウも、本件が死海文書通りの出来事であることを説明され、レイの提供に同意した。
 創造主がいる平行宇宙ヘ綾波レイを送る方法を知的生命体は教示した。平行宇宙はワームホールにより、それぞれの次元宇宙と繋がっている。その為、人の身体を量子レベルまで細かく分解してワームホールを通過させ、再構築させれば移動が可能になる。知的生命体は人体の分解を行う装置の製造方法と、使用方法を詳しく教えてくれた。
 知的生命体の設計図に基づき莫大な費用を掛けて、異次元電送移動装置は完成した。この装置は最高機密として建造された為、ネルフ本部の地下深く、セントラルドグマの人口進化研究室内に設置されている。
 転送する為に知的生命体が指示した転送先の座標は、とても複雑な数字が羅列されていた。テストの為に試しにその座標へ向けて三毛猫を投入したところ見事にその次元へ移動することが出来た。実験は成功だ。
 続けて綾波レイを電送移動装置に入れ、莫大な電力を使用して電送した。電送は成功したが、彼女がどんな世界へ送られたのか我々には全く分からない。そして一週間後、レイは突然帰還した。知的生命体は彼女を帰還させる為の装置を用意していて、それを使って彼女はこちらの次元に戻ってきたのだ。これにより二つの次元世界を行き来することが可能になった。
 レイの話では知的生命体の暮らす世界は、我々の暮らす世界とほとんど変わらず、驚いたことに生命体の姿や言葉さえも同じだという。この事実で我々と同じ世界を持つ平行宇宙がこの世に存在することが分かった。
 そしてその世界では宇宙を創造する力を持った創造主といえる者が存在するらしい。その人物の精神の揺らぎは全宇宙に影響を及ぼし、不安を感じると様々な悪影響を与える。神人はその悪影響の一つだ。
 創造主の精神安定こそが宇宙の平穏を得る最良の方法である。レイ以外にも、宇宙から派遣された多くの組織が、創造主の精神安定を図る為に周りを固めているという。彼女はある秘密組織の協力で、創造主とコンタクトを取ることが出来た。そして創造主の近くで監視を続けることを望み、自らその役を申し出た。
 新たに創造主が異世界人を求めているという情報がもたらされた。創造主は宇宙人はクローンであるという持論があり、異世界人は普通の人間である必要があるらしい。そこでこの世界の一般人を選出することになった。
 ちょうどその頃、碇シンジはエヴァンゲリオンに乗って戦うことに疑問を感じ、自分の殻に閉じこもっていた。彼の父親である碇ゲンドウは、シンジを異世界人として創造主に提供することを考えた。
 シンジも今後エヴァンゲリオンに乗る必要がないのであればと、レイと共にこの世界を離れることに応じた。彼の任務は監視をするレイとは違い、創造主と活動を共にすることだ。しかしそれには彼の過去の記憶は妨げになる。シンジは過去の記憶を消して新しい自分になる必要があった。シンジは過去の自分を捨てることに何の拘りもなかった。だから記憶を消去するその申し出に彼は躊躇うことなく同意した。
 ”陽子電磁法”と呼ばれる記憶消去術。それは知的生命体から教えられた技術で、強力な陽子を大脳に照射することにより、シナプスを切断する。それによって過去の記憶へアクセス出来なくさせ、記憶喪失と同じ状態を作り出すことが出来る。
 その処置を施されて、記憶を消されたシンジは、異世界人として綾波レイと共に、遠い別次元の平行宇宙へと送り込まれた。