無数の神人がネルフ本部のあるジオフロントに向けて身体を揺らしながら近づいてくる。行く手を阻止するように、国連軍や戦略自衛隊の大量の火器が一斉に総攻撃を仕掛ける。数百のロケット砲、N2誘導弾を装填したミサイルが、何発も命中して大爆発を起こす。しかし神人はビクともせずに歩き続けている。
 神人は攻撃を続ける戦車やMRLSを、まるで玩具でも壊すように踏み潰していく。踏みつけられた兵器類が火柱を上げる。その程度の爆発は、神人には何のダメージにもならない。
 神人の群れが第三東京市に入ってくる。地下空間に収められていない建物は、狂ったように暴れ回る神人に粉々に破壊されて、コンクリートの砂塵を巻き上げる。
 この無数の神人を迎え撃つのは、たった一体のエヴァンゲリオンだ。大きさといい、数といい、とても勝てる相手とは思えない。
『アスカ、神人を出来るだけ引きつけて』アスカの内耳にミサトの指示が聞こえてくる。
 内部電源での活動限界が半減している限り、アンビリカルケーブルの届く範囲まで引きつけて一気に攻撃する必要がある。最初の作戦はそうやって出来るだけの多くの神人を殲滅させることだった。
「分かってるわ」指示に対してアスカが素直に返事をした。エントリープラグ内のスクリーンに、壁のような神人の軍団が迫ってくる。アスカの身体に思わず武者震いが走った。
「神人との距離6000」レーザーが示す距離をマコトが読み上げる。
「最初の一撃が重要ね。プログレッシブ・ナイフが性能を発揮してくれると良いけれども」
 ミサトと同じ思いを、この司令部内の誰もが持っている。息を潜め、緊張の張り詰める司令部にマコトの「距離5000」という声が響いた。
「よし、アスカATフィールドを展開してから、最初の攻撃をして」ミサトが命令を下した。
「よっしゃ! 行くわよ」アスカは気合いを入れるように、大声で叫んだ。
 肩のプログレッシブ・ナイフを引き抜くと、ATフィールドを展開した。アスカの身体をアドレナリンが一気に駆け巡る。
「うりゃ!」
 アスカはアンビリカルケーブルが伸びる限界までエヴァンゲリオンを全速で走らせて、プログレッシブ・ナイフを目の前の神人の胴体に向けて斬りつけた。
 寒天でも切るような弱い感触が伝わり、ナイフが触れた神人の胴体から青い気体が吹き出す。腕へ向けて斬りつけると、腕が切り落とされて落下する。太股の付け根を切ると、重心を失った神人が大きな音を立てて崩れ落ちた。倒れた神人は全身から青い気体を吹き上げて、見る間に消えていく。
 予想以上にプログレッシブ・ナイフは機能している。これだけの威力があれば、ここで神人の進行を止められるかも知れない。皆がそう期待した。
「南西方向の神人が発生。その数急激に増えています!」マコトが叫んだ。
「何!」
 反対方向からも神人が攻めてくる。一体のエヴァンゲリオンで両方の神人を倒すことなど不可能だ。これじゃジオフロント内に攻め込まれるのも時間の問題だ。
 神人の一撃がエヴァンゲリオンの顔面を捉えた。その威力は凄まじくエヴァは100メートル以上上空に投げ飛ばされて、地面に叩き付けられた。ダメージで起き上がることが出来ないエヴァを容赦なく神人が踏みつけていく。ようやくエヴァ立ち上がった時、神人の集団が都心ビルを遠慮なく粉々に破壊していた。
「そんなことさせない」決死のアスカが背中から斬りつける。
 プログレッシブ・ナイフで背中を斬りつけられた神人は気体を吹き上げて、その場に崩れ落ちた。アスカが安堵の表情を浮かべたのも束の間、エヴァの身体が後ろへ放り投げられた。神人がアンビリカルケーブルを握ってエヴァンゲリオンを振り回しているのだ。
 振り回されたエヴァはビルに激突し、地面に叩き付けられ、ボロボロにされていく。そこから逃げようと藻掻くが、自由が効かない為に成す術がない。
「アスカ、早くケーブルを切り離して!」
 アスカがケーブルを取り外す為に解除ボタンを押すが、何故かケーブルが外れない。
「駄目です、コネクターが食い込んでいます」
 エヴァは神人に振り回され続け、ビルにぶっけられ、地面に叩き付けられ、ダメージが酷くなっていく。
「アスカ、早くケーブルを切断するのよ」リツコが焦っている。
 アスカは手にしたプログレッシブ・ナイフを背中へ回して、手探りでアンビリカルケーブルのある辺りを斬りつけた。何度か試してやっとケーブルの切断に成功した。
 ケーブルが切断された瞬間、遠心力が付いていたエヴァンゲリオンの身体は大きく吹き飛ばされて山腹に頭から激突し、めり込んだ。
「格好悪い・・・・・・」アスカには痛みよりも、そちらの方が気になった。
「損傷が大き過ぎるわ。エヴァを大至急回収させて」リツコがミサトに依頼した。
「司令部北東の格納口から回収出来ます」マヤが言った。
「分かった。そこへ向かわせるから回収準備をして」
 ミサトはアスカに一時撤退の命令を出した。まだ戦い足らないアスカも、アンビリカルケーブルから電源を取れない状態であることを説明されて、渋々撤退に応じた。
「しかしミサト、弐号機を修復してもこれだけの数の神人には対応出来ないわ。どうするつもり?」
 リツコにそう尋ねられてもミサトに良い案はなかった。ダミープラグを使った実験は今も続けているが、成功を収めたことは一度もない。つまり零号機と初号機を発進させても、暴走の危険がつきまとう。一体どうすればいいんだ・・・・・・。
 ミサトは頭を抱えて考え込んだ。今ぐらいレイとシンジがここにいれば、と思わずにはいられなかった。