「今まで、周辺で多発する盗難事件の被害に遭うことがなかったのは、
紛れもなく、自分の家がドロボウにとって入りにくい家に違いない」
と、周りの出来事を、どこか、心の隅で他人事のように思っていました。
北側、西側は玄関灯(常夜灯)、東側はセンサーライト、南側には窓はなし、
ベランダはあっても4m以上の高さ、もちろん戸締りは欠かさず、
たとえ、窓のある1階店舗部分に侵入されても、住居部分との出入り口も施錠、
まあ、万全とは言わないまでも、対策をしているつもりでした。
『攻撃こそ最大の防御』、用心しているぞと言う姿勢を見せることこそ、
最大の防犯という思いは、単なる希望的観測に過ぎず、
高をくくっていたと言われれば、反論の余地もありません。
・・・・・・・・・・
朝7時半、2階のインターフォンの切迫感を煽る小刻みな呼び出し音。
いったい何事かと受話器をとると、
「ガラスが割れているみたい」
と、声をひそめる妻。
「ええ?なに?なんだって?聞こえないぞ!」
「だから、ガラス!」
「ガラスがどうしたって?」
「割れてるみたい」
『みたい』 と言う前に確認すれば良い訳だし、自宅の中で、聞き取れないような声で
話す必要もないと思うのですが、とにかく、そんな言い回しには、ただならぬ雰囲気がありました。
「ガラスって、どこの?」
ガラスが割られたという言葉に、店正面のガラスへの投石を連想したのですが、
「横の扉!さっきから、何か、ゆらゆらしていると思ったら、ガラスに貼ってある紙!」
意表を突く、サイド攻撃に、
ひょっとして、これは、ドロボウ?
あわてて1階に下り、扉を確認、取手の上部分のガラスが、三角形の状態で
抜けているのを確認、そして、外から割られたのであるならば、当然、
確認する足元に散乱して然るべきガラスの破片が見当たりません。
わずかにひとつだけ、小指の先、5mm径ほどのものが、何の違和感もなく転がっていました。
扉は上半分が模様入りガラス、そして、腰部分がアルミパネルの、ごくごく貧弱なアルミドア。
パソコンのすぐ前と言うこともあり、遮光の意味で、ガラス部分に内側から、
少し厚手の紙を貼っていたのですが、取手上部分の端がめくれ、時々、
外から吹き込む風に揺れる状態でした。
反射的に、扉を開け、外に出るとすぐ右の足元、アスファルトの上に
三角のガラス、大小2枚だけ、行儀よく、重ねられていました。
即座に、と言うより既に導き出されていた
『ガラスの割れている原因 = ドロボウ』 の答を、
いわば、単に確認する行動だったのですが、次の瞬間、
あっ、しまった!さわっちゃったよ
そうです。もしかしたら、犯人の指紋が付いているかもしれないドアの取手を、
しっかり握っていました。自分では落ち着いていたつもりでしたが、意識の外では
あわてていることを実感、
さあ、落ち着け、落ち着け
と、自分に言い聞かせ、
次は、何をすればいいんだ?
うん、そうだ!
とレジに走ると、案の定、釣銭用の、500円玉以下の硬貨が消えていました。
それも、1円玉のかけらすらも残っていません。今まで、常にコインが入れられ、
掃除されることのなかったレジトレーは、まるで雑巾で拭いたように黒光りしていました。
それにしても、1円まで、きれいに持ち去った、いや、持ち去らなければならなかった理由を
あれこれ想像するに、そのドロボウに対し、悲哀すら・・・、よほど、困っていたのだろうか?
ただ、日頃から、夜間、わざとレジは開け、かつ、硬貨を入れ、
そのままにしていたのには、それなりの訳があります。実は、一旦、
1階部分にドロボウが入った場合のことを考えての処置です。
もし、泥棒が侵入して、1階に金銭がなければ、ひょっとして2階へ
侵入しようと考えるかも知れないし、最悪、逆恨みで余分な悪さを
しないとも限りません。
そんなドロボウの心理を考えての対処、言わば防犯対策なのですが、
考え方を変えれば、それが、今回、幸いしたとも言えます。
それに、中の釣銭よりレジ本体のほうが高い訳で、開けておけば、
レジも壊される事はありません。
車上狙いも、いきなりガラスを割って中のものを持ち去っていく、
手荒な犯行が増えているそうなのですが、高級車ならば、しっかり施錠の上、
駐車場所もそれなりに考える必要もありますが、転売の恐れもない、
高価な装備もなし、金銭も置いていない(置くほどない?)、それなりの車、
そんな車でいきなり、ガラスを割られたら場合の修理代を考えれば、
どうぞ、探してくださいとばかり開錠しておいたほうが賢いはずです。
腹いせに悪さされる可能性を考え、申し訳程度に、灰皿に百円玉を
2,3個入れておけば完璧?です。
ただこれも、とりあえず、ドアを開ける行為をすることを前提にしていますので、
何の思慮もない、丸きりのおバカな車上狙いが、いきなりガラスを割ることまでは想定していません。
次に、サービス店会ポイント用機械の中の残ポイント数(
数年前、ポイントを移し取られる盗難事件)、
2階から下ろした現金、通帳、カード等、無事を確認、とりあえず、今回、
こちらの思う壺以内の被害金額にほっとしたのですが、このまま放って置く訳にはいかず、
さあ、ついに、ここから、おまわりさんの登場です。
自分自身、既に興奮状態は収まり、落ち着きを取り戻しつつありました。
ドロボウの姿、形も見当たらない今、慌てる必要もなく、
そうすると、110番は仰々しい。とりあえずは、近くの交番へ連絡することが最善と、
受話器に貼ってあるシール(2,3日前、この地区の交番に新しく赴任したらしく、
最初の仕事、各家庭調査に訪れた際に渡されたもの)を見ながらダイヤル、
「あの〜、野地のお菓子屋なんですが、どうも、ドロボウが入ったようで・・・」
「ああ、そうなんですか。では、そちらの住所、氏名、連絡先を教えてください」
さすが、警察? と言うか、意外と驚いてくれない。ひと通り、聞かれるままに、
氏名、住所、連絡先、被害状況などを説明したところで、おまわりさん、
「実は、今日、私、非番なんです。申し訳ないのですが、
三ヶ日交番か、細江署の方へ、もう一度、掛けなおしていただけませんか?」
えっ! ここまで、聞いておいて・・・
と、言葉を失いかけたのですが、
「ああ、それは、それは、どうも、お休みのところ申し訳ありませんでした。」
と、ねぎらい、
<なぜか、ねぎらってしまう自分が情けない
「あっ、ちょっと、それからですね、今、店を開いているわけなのですが、
もし、警察の方に来ていただいた場合、調査とか、事情聴取など、
時間的に、どの位、掛かるものでしょうか。」
「それは、え〜とですねえ、鑑識官による指紋、足跡採取、
それから、別の警察官になると思いますが、被害届受付、状況調査など、
迷惑とは思うのですが、最低でも1時間から1時間半ほどは、かかると思います。」
「ああ、そうなんですか。う〜ん、例えばですね、今度の定休日に
来ていただいて、じっくり、調べてもらうと言うわけには・・・」 <おいおい?
「はあ?」
「あっ、やっぱり無理ですね。分かりました。今から電話してみます。」
・・・・・・
一旦、受話器を置き、電話帳片手に、三ヶ日交番にダイヤルすると、なかなか繋がらない。
「こちら、細江警察署です。三ヶ日交番の署員は出払っていて、
こちらへ転送されました。どうか、しましたか?」
どうも、細江の本署の方へ自動転送されたらしい。
「あの〜ですね、実は、泥棒に入られたみたいなのですが」
と言うことで、再び、住所、氏名、被害状況の説明を・・・、
「そうですか。こちらからも向かいますが、
実は、三ヶ日交番の者が、そちらの近くへ行っていますので、
それが済んでから、そちらへ向かわせます。
もうしばらくお待ちいただけますか?」
「えっ、そうなんですか?うち以外にも入ったんですか?どこですか?」
「あ、はい、あっ、いえ、それは、え〜と・・・
とにかく、もうしばらくお待ちください」
守秘義務が課せられた警察官は、言葉を濁すしかありません。
「はあ、それは大いに結構で、出来れば、午後からのほうが・・・」
「えっ?」
「いえいえ、何でもありません。分かりました。お待ちしています。」
電話を切り、妻に、
「もうすぐ、警察官が来て、ここを調べるらしい」
「えっ? ちょっと片付けたほうがいいかなあ」
少しばかり、乱雑になっている様子を見ながら、妻。
鑑識官が来て、
『随分散らかっていますね。これは、ドロボウの仕業ですね』
などと勘違いされては、ドロボウも迷惑?だし、
かと言って、その行為は、厳密に言えば現場を動かしてしまうことになる。
でも、まあ、殺人現場でもあるまいし、整頓ぐらいは問題ないと勝手な解釈をし、
「う〜ん、そうだな。机の上だけでも、少し片付けようか」
パソコンの設置してある机の上、そして机の下を整理しようと机を挟み、
二人で片付け始めたのですが、進入した入口側に回り、しきりに動く妻が、どうも、気になる。
「ちょ、ちょっと待て、あまり、そっちで動き回るのは、ちょっと、まずいぞ」
「えっ!あら?そう?」
「そりゃあ、そっちは、すぐ、そばだし、犯人の遺留品なども・・・」
「ああ、そうか、そうか」
・・・・・・
そんなこんなでドタバタしていると、1台のミニバンが駐車場に入ってきました。
到着と同時に、何やら車の中をごそごそしていました。
ひょっとして、鑑識官? と思うまもなく、店に入ってきた、その人物、
「警察のものです。侵入場所はどこでしょうか?」
三ヶ日交番のおまわりさんに先を越して、本署の鑑識官がやってきたようです。
現場に案内すると、
「今から、調査にかかりますが、よろしいでしょうか?」
昼からお願いしますと言ったらどうなるのだろうか?
などと余分なことを考えたりしながら、
「あっ、ええ、どうぞ、どうぞ」
「ここは、犯行に気付いた時の状態ですか」
思わず、妻と視線を合わせ、しばし沈黙の後、
「ええ、まあ、だいたい・・・、そうですね」
『だいたい』、『おおむね』、う〜ん、実に便利な言葉だと実感していると、
「え〜と、そうですね、この扉を中心とした指紋採取と、
中へ入った場所の靴跡を調べます。
今からしばらく、ここの辺りへは、入らないで下さい」
「えぇ?靴跡を調べるんですか。先ほどから、そこら一帯をペタペタしましたが?」
と、妻が言うのに応え、鑑識官、
「それは、大丈夫です。家の人の跡と違ったものを選別しますので」
と言うと、一旦、車に戻り、道具を揃え、再登場、そして、始まりました。
テレビなどでお馴染みの指紋採取、そして、床に黒いシートを広げての靴跡採取、
実際に目の前に展開する犯罪捜査には、興味をそそられるものがあります。
でも、
『これが、強盗とか傷害が絡むとその態度は違うんだろうなあな』 などと思ってしまうほど、
どこか、やる気のないような気も・・・、一人だけのせい、それとも、日曜日のせい?かも
やる気の無さも含め、じっと、その様子を眺めていたかったのですが、
こちらの仕事もあり、それに、時間もかかりそうだし、一旦、その場を離れることに
・・・・・・・
と、予想に反し、しばらくすると、鑑識官が
「あの〜、終わりましたので、いいでしょうか?」
えっ? もう、終りなの?
と仕事を中断し、侵入個所へ行くと、
「え〜、では、鑑識の結果を説明します」
随分と早い調査結果に戸惑いながらも、
「あっ、お願いします」
この説明行為も、守秘義務同様、職務マニュアルなんだろうな
などと、これまた、要らぬ想像をしていると、
「え〜とですね。これを見てください」
手袋をした鑑識官の手を覗き込むと、先ほど自分が確認した、あの割れた2枚のガラス、
指紋採取の粉で銀色に輝くのは確認できたのですが、それ以上、それを、どう判断したものかと
言葉に窮していると、
「こうしてみると分かると思いますが」
と言いながら、少し目から遠ざけるようにして、光の反射加減を変えるように
ガラスの角度をゆっくり変えて見せてくれました。それでも、さっぱり分からない。
「何か、筋のようなものは見えますが、残念ながら指紋はありません。」
おい! ないのかよぉ? じゃあ、いくら、懸命に見ても分からない訳だ。
「同じようにですね、扉に残っているガラスも検査したのですが、
残っていませんでした。ただ、ひとつだけ、取手部分に、
はっきりとした親指の指紋がありましたので、こちらに移しました」
と、指紋らしき跡を移し取ったフィルム状のものを提示していただいたのですが、
その唯一の証拠である指紋、正直に白状しますが、そうです、冒頭の記述、
『外に出た』、私の指紋です。
間違いない!
何故って、抜き取ったガラスに指紋を付けず、取手に指紋を付けるのは、
それは、おバカの証拠、まあ、実際、おバカが入ったかもしれない訳で、
100%の断言は出来ませんが、
「あの〜、朝一番、間違いなく、しっかりと、自分が握っているのですが」
「ああ、そうですか、そうですよね」
「と言う事は、これは私の可能性のほうが・・・」
「ええ、ええ、そうかも知れません」
「あの〜、じゃあ、自分たちの指紋も採らなくてはなりませんね」
「ああ、そう、もちろん、そうですね。
でも、お仕事中ですし、手を汚してしまうことになりますので、それは、また、あとで・・・」
えっ! また、あとって、いつ?
と思いながらも、
「はあ、そうですか」
と受け応えたのですが、内心、何となく、指紋採取の手間を嫌うように見えたのは、
自分の思い過ごし?・・・でしょう、きっと。
次に侵入手口の説明に移ったのですが、
要するに、取手から20cmほど上のガラスとアルミの境、抜かれた三角形のひとつの頂点部分、
ガラスを止めるゴム(ビート)に先端のとがった金属の棒、たぶんドライバーを差し込み、
アルミ枠をテコに、こじる。そうすると、そこを頂点にガラスに放射状のひびが入り、
そして、こじる角度でひびの方向も、おおよそ決められる。
ちょうど、手の入る三角形を抜くことが可能になると言うのです。
業界用語?とでも言うのでしょうか、それを
『一点割り』 と言い、ガラスを飛び散らせることも、
大きな音も立てずに済むと言います。残ったガラスを見るに、外から手を入れ、
開錠する最小限の大きさに抜かれ、かなりの練習の成果?が見てとれます。
たぶん、素人では、こうも、きれいには行かないだろうし、とにかく、くれぐれも、
まね 、
練習をしないように。
「それとですね、足跡なのですが、床の材質もあるのですが、分かりませんでした」
と、ふと、その時、鑑識の人が、扉の上部分を見て
「これは?」
と、センサーライトを指差しました。
「ええ、防犯の意味で付けていたのですが、今回、意味がなかったですね」
「いえいえ、そうじゃなくて、コード」
「えっ?」
あれっ! 切断されている。
それも、ニッパーやハサミなどの押し切りではなく、切れ味の鋭いカッターナイフなどで
一気に切ったような、きれいな切断面でした。とりあえず自分が照らし出される恐れを無くす目的で
コードを切断、それから、おもむろ?に侵入を図ったようです。と言うことは、その切断に使ったものが
何であるにせよ、刃のある道具に間違いないわけで・・・、少しばかり、背筋が寒くなる思いでした。
まあ、中に入ってしまえば、仕事柄、刃の付いた物は、大小さまざま、よりどりみどりですが・・・
それにしても、そのセンサーライト、その光が当たれば、それだけでドロボウは逃げるに違いないと
言う思いは甘過ぎたようです。下見をしていたのか、それとも、その場の判断か、
とにかく、自分がセンサーライトに照らされている状態で、大胆にも切断を実行したことになります。
いや、ひょっとして、昼間のうちに、怪しまれない格好、例えば、工事業者、ガス、電気の
検針業者を装って近づき、切断しておいた可能性も否定できません。
こちらの努力を踏みにじられた?と言うか、こちらとしては、ドロボウの心理を読んでいるつもりが、
逆に、それを、あざ笑うが如くの行動に、無性に腹が立ってきました。
ただ、切断したと言うことは、裏を返せば、自分の姿が闇に浮かび上がることを
嫌がったと言うことで、センサーライト自体は夜間の防犯に、それなりの効果がある証拠であり、
今回の犯人には、まんまと、してやられましたが、ひょっとして、今までに、何回かは
撃退していたのかも知れません。
肝心なのは高さ、少し背伸びをすれば届く所への設置、これは、うかつでした。
いや、間が抜けていました。
一連の説明を終えると、
「では、これに、サインと捺印をお願いします」
横10cm、縦5cmほどの小さな紙、文字が小さ過ぎ、遠視のため読み取れなかったのですが、
拒む理由もなく、言われるままに済ませました。たぶん、検査をし、それを承認する証明書?に
違いありません。あとから来た交番の制服警官(妻が対応、こちらが、本格的な事情聴取と
被害届の受理)の場合も、同じように、署名と捺印が必要だったらしいのですが、
さすが、この辺は、お役所、きっちりしています。
ただ、きっちりしたあと、「あとで」と言い残し、近所への事情聴取に出た鑑識官、
その日も、翌日も、翌々日も、そして、10日が過ぎ・・・、
一日千秋の思いで待ちつづけているのですが、音沙汰なしです。
こちらとしては、いまだに、
『きっちり』 していないのですが・・・
・・・・・・
警察が帰った後の午後、仕事もおおかた終えたところで、パソコンの前に座っていたとき、
ふと、足りないものに気が付きました。パソコンの脇に置いてあった、
町内のポイントカード加盟店会で出している、商品券(お客が使用)がなくなっていることです。
不思議にも、一緒に置いてあったポイント終了(500円として使用可能)カードの方は、
なぜか、手付かずでした。そして、商品券にもカードにも、裏書に記入欄があるのですが、
使用していただくと、すぐ使用店名欄に店の名称を記入するのが常でしたので、
たとえ、誰かが持ち出したとしても、それを使うには、その裏書を、きれいに消す必要があります。
そのまま使おうとすれば、使った店で怪しまれることになり、問い質される可能性も出てきます。
どちらにしても、それは、三ヶ日以外では絶対に使えない代物、
と言うことは、それが使えることを知っている、要するに、町内、あるいは町内に精通している人間の
可能性が予測できます。
とにかく、このことに関しても、放って置く訳にも行きませんので、翌日の月曜日、
加盟店本部と交番へ、犯人が裏書した商品券使用の可能性とその場合の注意を
喚起する旨の連絡をとったのですが、もし、使ったら使ったで、
これまた、犯人の、それなりの事情がしのばれる悲しい出来事に違いありません。
・・・・・・
人間の意識と言うのは面白いもので、日が経つに連れ、事件に対する緊張感が薄れ、
冷静な思考(
『気が緩む』 が正しい?)ができるようになります。非日常的な出来事ゆえに、
可能性としては、ほぼ0%なのに、事件直後2,3日は、
『今晩、また侵入してくるのでは』
と真剣に心配していたのが、
『まあ、入ることはないだろう』
に変わり、それなりの対策を施したことも手伝い、ついには
『まず、侵入は無理だろう』
と、再び、高をくくり始めています。
悲しい人間の性(さが)、
『喉もと過ぎれば熱さ忘れる』 が如くです。
それに、今回、あまり
『熱』 くなかったので、喉もと過ぎずに忘れてしまいそうです。
そんな中で、いまだに消えない大きな疑問が、ひとつだけ残っています。
店部分と家の玄関との境は、別方向から2箇所の扉になっているのですが、
玄関側がサムターン、作業場からは鍵がないと開けられない構造になっています。
毎晩、仕事が終わると、必ず、施錠するのを日課にして、店を新しくして7年間、
うっかり忘れたのは、本当に数えるほどです。
被害のあった翌朝、妻は、二つの扉が両方とも、鍵はおろか、扉が少し、空いた状態で、
「おれ?おかしいなあ。閉め忘れかな」 と思ったそうです。
もし、施錠されていて、それを無理に開錠しようと思えば、扉や鍵の周りに何らかな痕跡が
あるはずなのですが、傷等、一切、見当たらないのです。
休みなど、毎日の行動パターンと違う日の施錠忘れはあるにしても、営業した日の
施錠は作業から続く一連の行動で、ここ数年、忘れたことはありません。
妻本人、
『あれ?』 と思うほど稀な状態だったにも関わらす、
今では、私の施錠忘れだと決め付けています。
ドロボウに入られる確率と施錠を忘れる確率を掛けたその確率は万、いや、億に一つの確率、
自分としては、今でも開錠が何らかの人為的なものと信じ、事ある毎に、扉を眺め、
謎解きに挑戦しているのですが、未だ、結論が出ていません。
どうも、迷宮入りの可能性が高いようです。
ただ、厳然たる事実は、自分たちが寝静まっていた時間、階段の下まで犯人が来て、
2階を眺め、上に上がるべきかどうか迷ったことです。
2階の様子(今は隠すようにしましたが、当夜、上がれば、すぐ分かる場所に現金を放置)から、
幸いにも、上がって来た様子はありません。
ちょうど前夜の夜間ウォーク、今までになく長距離を歩き、二人とも、ヘロヘロの状態、
ひょっとして、それが原因で施錠を忘れたのかも知れませんが、あまりの疲労困憊に、
1階のパソコンは入れっぱなしで、そのパソコン内の音楽データを、アンプを通し、
店内に流していたので、店は一晩中、BGMが流れ、
そして、玄関土間には、脱ぎっぱなしのスニーカーを始め、野球スパイク、サンダルなど、
しめて十足ほどの履物が散乱、自分がドロボウならば、2階への侵入をためらう状況です。
きっと、ドロボウは考えたに違いありません。
BGMが鳴り放しと言うことは、今すぐにでも、誰かが、
それを止めに降りてくるかも知れない。
それに、履物の数からして、この家には、
かなり、多くの人間がいるに違いない。
これは、ちょっと、やばいぞ。
とっとと、逃げ出さなくては・・・
多少の被害金額はあったにせよ、それらは、目に付く所に置いてあったものだけで、
引き出し等を引っ張り出し、物をひっくり返したような跡、要するに散乱した様子はありませんでした。
以上、総合的に判断すれば、犯人は弱気になり、早々に退散したと考えるのが妥当でしょう。
今回、偶然が重なり、ドロボウに階段下まで侵入されたのですが、不幸中の幸い、
逆に、偶然と必然により、2階に置いた現金も無事、家人への危害もなく、
これを、運が良かったと言わずして、何と言うべきでしょう。
その上、その出来事は、今まで以上の教訓になり、更なる防犯強化、
そして、極めつけは、
『銀行に預けても利息もつかない』 と不必要に現金を貯めこんでいた
『備えなしで患(うれい)ばかり』、『慢性喉元過ぎれば症候群』の妻の、
今まで、何度言っても聞かなかった、その意識を徹底的、かつ、根本的に変えたことです。
侵入された扉のガラス部分をアルミパネルに変えたのを始め、窓と言う窓と、
主要な扉は3重ロック、室内には音声アラームと照明を設置、
手持ちの現金は、最低限の金額だけ残し、総て銀行へ入金、
さらに、念には念を入れ、枕元に、金属バットを用意、
これら、すべて、今回の気弱?なドロボウのおかげ、安い授業料だったと感謝しています。
でも、
『喉元過ぎて』、枕元にバットを置いたこと、すっかり忘れていました。
・・・<喉元過ぎれば熱さを忘れる>・・・
苦しい事も過ぎてしまえば忘れてしまうことのたとえ。
また、苦しいときに受けた恩も楽になれば忘れてしまうことのたとえ。
・・・<一日千秋(いちじつせんしゅう)>・・・
一日会わないと何年も会わないように思う意
恋い慕う気持ちや待ち望む気持ちが非常に強いこと
『一日三秋』も同じ意味、また、『いちにちせんしゅう』とも読む
・・・<備えあれば患(うれい)なし >・・・
平生から準備ができていれば、万一の事が起こっても心配することはない。
・・・<へろへろ>・・・
見るからに弱いさま。力のないさま。へなへな。
多く、人や物をあざけっていう。
人品は、へろへろ伝道師の億言万語にまして 蘆花:思出の記
いかにも弱そうな、へっぴり腰の武士をして 『へろへろ武士』 の表現があります。
同様に、飛んでくる鉄砲玉に、『へろへろ玉』 の表現を用います。
発射された弾丸に、へろへろも、しゃっきりもないと思うのですが、
これは、どちらかというと、最後の意、『あざけり』 の表現と言えます。
2004/07/16付 朝日新聞(名古屋本社版)
従業員2人と金庫窃盗容疑(知多の建設業者逮捕)
愛知県知多署は15日、消火器を使った強盗容疑で逮捕された従業員と共謀し、
金庫を盗んだとして、同県知多市八幡新町2丁目、建設業柴田義行容疑者(40)を
窃盗の疑いで逮捕したと発表した。
調べで柴田容疑者は昨年7月24日未明、同県東海市名和町の牛丼チェーン店
2階事務所から、柴田容疑者の会社で働いていた建設作業員2人と、
現金2万円が入った重さ80kgの耐火金庫
を盗んだ疑い。建設作業員2人は今年1月下旬、知多半島での連続消火器強盗の
容疑者として逮捕され、調べの中で金庫窃盗を自供したという。
この記事の前提となる記事の所在が不明のため、消火器強盗がどんな強盗なのか、
少しばかり理解に苦しいところがありますが、たぶん、消火器の点検を装っての居直り強盗と
予想できます。それとも、消火器を振り上げ、
「金を出せ!」 かも知れませんが・・・・
ただ、今回のドロボウ記事を読み、世の中には間が抜けた話が転がっているものだと
実感しました。盗んだ金庫を開けた時、ドロボウの焦燥感を想像するに、
笑いで 悲しくて、
涙が止まりません。
牛丼屋さんも、大変です。2万円を入れた耐火金庫80kg(2万円では買えない?)を
壊されるのであれば、2万円入れたままで、開け放しておいたほうが・・・・
いやいや、最大の疑問は、なんで2万円を入れておいたのかと言うこと。
2万円だったら、店長の財布でも、十分、安全なのに・・・
でも、2万円でも入っていただけ救い?はあった訳で、もし、『空っぽだったなら』を
想像すると、その焦燥感(盗んだ方も、盗まれた方も)は、計り知れません。
耐火金庫は開けたままにしましょう!