結社誌での土生重次作品評
 
◇花暦(6月号)◇
「現代秀句展望」田村糸女
 
 「俳句」4月号、大特集「充実の60歳代」より
 本号は俳壇の中核を担う作家ら142名の新作と抱負を掲載しているが、その中から次の作品を抽いた。
 
似てゐてもどこかがちがふ官女雛 土生重次
 
入るるものなくて蒔絵の雛調度   
            ひひな8句より
 掲句を拝見してから間もなく、氏の訃報を聞いた。まだまだこれから活躍して欲しい作家なのにと悼まれる。コメントに「私は数年前から難病を発症し、世紀末も新世紀もベッドで送り迎えた。家族や多くの誌友に支えられ励まされ命を刻んできた。(中略)今新世紀を一日でも永らえることを祈っている日々である。」とある。「扉」を主宰して順風満帆の途中に仆れられたのである。
 一句目、同じ手になった人形であるから似てはいるが、眉や口元などに三人三様微妙な違いを発見した。全身眼となって対象物を凝視している様子が思われる。
 二句目、蒔絵に金銀の金具の見事な雛の調度品だが、あくまでも飾り物、何も入れるものがないのはあたり前で、誰も承知していながら詠まれなかったことである。いづれも病中吟のはずだが、氏らしくどの句にも暗さがない。機知に富み、平明で深長なこのような句もこれが限りかと思うとき、心からご冥福をお祈りする。
 
 
◇銀化(6月号)◇
「現代俳句月評・垂直のこゑ」亀丸公俊
 
襟かたくしめて流るる夫婦雛 土生重次
            「俳句」4月号より
「襟かたくしめて」という表現には、禍や穢を一身に背負い途中で沈むことなく流れ去らねばならない、と恰も夫婦雛が固く決意しているような印象があって秀抜だ。先だって作者は残念ながら亡くなられたが、如上の描写には闘われた難病のことも念頭にあったのだろう。ご冥福を祈りたい。
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