第112回原宿句会
平成10年10月2日 新幸橋ビル

   
兼題 燈火親し 檀の実 後の月
席題 秋澄む 


     東人 
檀の実活けて座敷に風通す
嵯峨時雨かな落柿舎の木戸叩く
灯下親しモーゼの杖は蛇となり
河岸に向く一間間口秋澄めり
草匂ふ信濃の海や後の月

     正 
連弾の双子の姉妹檀の実
母よりも齢を生きて後の月
パソコンや燈火親しき一太郎
秋高し快音はなつドライバー
秋澄むや前橋汀子の弦冴ゆる

     希覯子 
十三夜男世帯に泊り客
靖国の命とならず秋澄める
つきまとふ秋蚊を妻の化身とも
大小の歳時記重ね秋灯下
真弓の実花かと紛ふけもの径

     千恵子 
爽やかや遺品の中の航海図
机より臥所に灯火親しめり
檀の実光りて雨の晴間かな
野の草はどれも細身や秋の雨
港には小舟ばかりや十三夜

     白美 
灯火親しまたひとつ積む新刊本
眼薬の顎までこぼれ秋日和
爽やかや糊のききたる白き衿
耳馴れぬ鳥の声して檀の実
語り合ふ肩の痛みや十三夜

     利孟 
また親の出番や村の運動会
判じ読む蝦夷の地名や檀の実
秋澄めり熨し塗りにして化粧壁
支那街の粥噴く露店後の月
トンカツのキャベツ大盛り燈火親し

     隆 
一斉に天下御免と布団干す
書出しのインクの濃さや後の月
痛点の隙打たれけりそぞろ寒
人生がころがつてゐる檀の実
燈火親し半生の皺見つめをり

     武甲 
秋の日やメールを開くパスワード
濁流に呑まれし厩舎檀の実
秋澄むや礼砲はなつ迎賓館
掛け声に茶髪の揺れて赤い羽根
途中下車して待つ逢瀬後の月

     健一 
燈下親し深夜に開く窓と窓
じやん拳の遊びの声に栗名月
川魚の下る姿や秋澄める
十三夜戻るホテルの狭き窓
崖山を染め始めける檀の実

     箏円 
偏頭痛裂けて石榴の黒き種子
志ん生の音盤燈下親しめり
ふくいくと織部に宿る後の月
背景はセピアの林檀の実
墓洗ふ無言の母の背中かな

     萩宏 
母背負ひ歩く旧道檀の実
暗がりへ女を押しやる後の月
秋の燈の川面に揺れる佃島
秋出水収穫の日に泥浚ひ