第113回原宿句会
平成10年11月10日 新幸橋ビル

   
兼題 残菊 土瓶蒸し 朝寒
席題 木の実落つ


  東人
残菊や背中に死角てふ急所
木の実落つわが守護神の持国天
やすやすと酢の香にむせて土瓶蒸し
残菊の菊の太々真くれなゐ
西塔に夕日あづけて秋逝けり

  希覯子
朝寒やバス悉く一人掛け
残菊を括り直して客迎ふ
木の実降る人間魚雷雨曝し
土瓶蒸し把手の蔓のややゆるき
定食に一品加ふ土瓶蒸し

  利孟
尾の潜きあとは濁りのかいつぶり
木の実落つ亀の台座の寺銘塔
残菊やてのひらで消す得点板
口を開く子にやる小海老土瓶蒸し
朝寒や先に実を入れ宿の椀

  美子
一隅の残菊ゆゑの立ち姿
木の実落つ少子化の子にある未来
独り身の猫の摺り足朝寒し
唇の形佳き女土瓶蒸し
焼酎にとぽとぽ浸す枯瓢

  武甲
撥ね釣瓶ありし井戸跡木の実落つ
立冬や子の意のままの一輪車
残菊や石に刻みし武勇伝
故郷より届く荷を解く夜寒かな
商談も佳境に入りて土瓶蒸し

  千恵子
熱燗に女耳より酔ひにけり
残菊といへど移ろふ色のあり
朝寒や双眼鏡のくもりがち
地球儀で母国探す子木の実落つ
蓋取つてまづ覗き込む土瓶蒸

  白美
木の実落つ学級日誌の黒表紙
地を這ひて右に左に残り菊
残菊の葉のもとにある脇芽かな
まづ汁を干して具を選る土瓶蒸し
朝寒や言葉かはさず通り過ぐ

  隆
木の実落つ夜に紛れて屋敷神
四暗刻単騎待ちなり土瓶蒸
残菊や脚絆の束の祀らるる
気色ばむ人に向かひて狸汁
朝寒の記憶にありぬ無影灯

  箏円
土瓶むし主婦冥利なる膳支度
朝寒や隣家の雨戸開く音
木の実落つ粛たる気あり能舞台
残菊や撥に残りし指の跡
宇宙旅行上弦の月暈を着て

  笙
朝寒や波浪もみ合ふ竹生島
湯気で喰ひ香りで喰はす土瓶蒸し
「いいお顔」たつぷり納め七五三
残菊をちらほら見やる手漕舟
水の輪を残し鳰の子消えにけり

  正
山の幸野の香こもれる土瓶蒸し
黄落やアポロはダフネの愛を得ず
木の実降る夜に聞くショパンのピアノ曲
死亡欄に知人の名前朝寒し
嫁がざる娘一人や残り菊

  健一
小さき身に集める視線残り菊
木の実落つ陽のあふれゐる寺の庭
色変へて西日に向ふ鰯雲
土瓶蒸し汁あと覗く摘み味
朝寒や襟立てて待つ停留所