第114回原宿句会
平成10年12月1日 新幸橋ビル

   
兼題 極月 藪柑子 なまこ
席題 手袋


  東人
段取りの前後を違へ海鼠噛む
凡庸の身を束ねられ藪柑子
走り根の磐割りたる冬紅葉
財布より黒き手套の札つかむ
極月や紙面溢るるマイナス値

  希覯子
極月や黒ネクタイを二度三度
酒の名を前掛けしたる菊師かな
塗り箸を逃ぐる酢海鼠挟みけり
藪柑子屋敷稲荷の鳥居古る
手袋の人と吊革催合ひけり

  正
来し方を問はず語らず海鼠噛む
人声の低き病室暮れ早し
初孫の生まれし家や藪柑子
手袋のぬくもり残る別れかな
極月や老女たつきの小料理屋

  利孟
爪を噛むごとくに口で脱ぐ手套
海鼠選る握り具合で確かめて
預金機に話しかけられ小春かな
検札の二人あと先歳詰まる
黄落や銭受け前に胡弓弾き

  白美
携帯の番号欄あり新日記
手袋の飾り少なし夜の駅
またひとつ力を入れて海鼠噛む
藪柑子八百屋の隅でうられを
極月や電飾路地の木々までも

  千恵子
真一文字に切れば水涌く海鼠かな
洩れる陽を受けて円らに藪柑子
床の間に呂宋の壷や冬座敷
公園の忘れ手袋汚れゆく
鋤鍬を商ふ店や十二月

  箏円
極月の雨に万華の硝子窓
藪柑子猛犬注意の文字かすか
食通といふ天敵や赤なまこ
自転車の荷かごに残る皮手套
漱石忌額の広き美少年

  健一
極月の終り大吉幸の歳
皿を逃げ箸を逃るる海鼠かな
あるかなき実を覗かせる藪柑子
手袋のままに夜焚火語り合ふ
隠れ道窯へ通ずる藪柑子

  武甲
深呼吸して待つ出番雪催ひ
手袋の赤のイニシャルぎこちなく
狩人は素潜り名人海鼠噛む
極月の人それぞれの回顧かな
貴婦人の残り香甘く藪柑子

  隆
手袋に指の芯なし傷痍兵
粗壁を洩るる夕日や藪柑子
枯菊や裏も表も華となす
浮き世にて言へぬことあり大海鼠
極月や牛啼く里へ降り来ぬ