第116回原宿句会
平成11年2月9日

   


  東人
背中より覚めて寝返る春の雷
ももいろに昏るる空港春浅し
先細る恋の路地裏花馬酔木
琴の音にほぐるひとひら寒牡丹
しんがりは味噌田楽の味噌の焦げ

  法弘
信貴山へななめの雨や花あしび
鶴守の鶴去にしこと知らず病む
浅春や父の骨片箸で割り
豆腐田楽大きな口の母である
フランス綴に刃を入れをれば春の雷

  白美
豆踏みて立春の朝始まれり
串数ふ豆腐田楽漆盆
馬酔木咲く箸一膳を買ひ求め
口ずさむ道造の詩春浅し
春雷やロッカー上の大達磨

  希覯子
春雷や高圧架線弧を垂らす
花馬酔木寺領に隣る保育園
田楽や捨つるに惜しく串賞づる
草木に佛性があり春浅き
鴨泳ぐ「三枝の禮」のあるごとく

  美子
春雷や異動内示の受話器置く
春浅し球形となる鳥の声
婚礼の膳の田楽扇形
着ぶくれて『オール讀物』読む女史
宴席の手土産として花馬酔木

  武甲
節分会上げ潮に乗る力士かな
濡れ縁に猫の気配や春浅し
豆撒や鬼面に隠す得意顔
春雷の止みて野原の光りけり
しなやかに枝を撓める花馬酔木

  千恵子
焙じ茶の香り立つ夜や春の雷
田楽や昔味噌屋の仕入帳
銀色の魚を銜えへて冬の鷺
春浅し朱印に天下布武の文字
叱られし子の拗ねてをり花馬酔木

  翠月
豆撒の福を拾らふも力ずく
春浅し朱筆の多き句原稿
春雷のあとより雨戸閉める音
田楽の木の芽を和えし味噌の味
花馬酔木坂に仄かな夕チャイム

  笙
福豆のはじける香り宵の路地
柚の香の味噌田楽や海昏るる
蘇へる越前館花馬酔木
峡深しうつする積もる春の雪
枯草を巻きて眠らす野面かな

  正
春浅し加賀の夜に聞く稽古笛
応答待つインターネット日脚伸ぶ
春雷やスリラー映画半ばなる
花あしび箱根八里の道祖神
田楽や備長炭で流行る店

  箏円
西北に秩父連山春の雷
それぞれの暮らし守りて花馬酔木
田楽を一串ゆづる老夫婦
祈ぎ事や梅花やうやう三分咲き
春浅し墨田の川の舫ひ船