第117回原宿句会
平成11年3月8日

   


  東人
歌洩るる町の教会桃の花
青空は視力を弱め春の潮
青き踏む白鳥人を怖れざる
独逸語の聖書をめくり春の風邪
銘柄のワインを注ぎ浅蜊蒸し

  千恵子
ここだけの女の話桃の花
てのひらに張子の虎や木の芽風
春潮の引き合ふときや岩平ら
物を食ふ夢見てよりの春の風邪
水噴きし後素気なき浅蜊かな

  法弘
花嫁の父なる人の春の風邪
亀鳴いて将門の天濁り初む
実朝の岬の沖を春の潮
髪結ひて額美し桃の花
雨来ると知多の浅蜊は舌出して

  希覯子
寺の娘の縄跳び上手地虫出づ
命乞ひせぬ鬼浅蜊深鍋に
春の風邪一人二役の詰め将棋
桃の花ピル解禁も間近かなる
春潮や東京港に新浮標

  美子
感嘆符のやうに駆け出す合格子
春潮や烏賊焼の汁したたらす
地下売場避けて久しき春の風邪
早朝の香を嗅ぎに行く梅林
先達は勢ひもよし浅蜊蒸し

  翠月
春の風邪詰め碁の押しも儘ならず
長崎に腎臓移植春一番
引く潮の忘れ形見か鬼浅蜊
枝立てて庭に雨呼ぶ桃の花
蟹の群残す岩場の春の潮

  笙
耳に声谺してゐる春の風邪
もの思ひを引きてさらひて春の潮
大足を預けて眠る浅蜊かな
一枝に三つ四つほどけ猫柳
桃の花咲いて音なき野面かな

  白美
春潮や手棹で離す舟と舟
座して観る覇王別姫に桃闌ける
百色の色鉛筆や桃の花
妻出て遅き起床や浅蜊汁
手の甲を額にあてて春の風邪

  正
浅蜊捕る沖はタンカー銀座かな
春の風邪ダミアの唄聞く日曜日
いつとなく春の潮寄す日本海
雪残るアルプスはるか桃の花
紅白のワインで祝ふ雛祭

  武甲
春一番下校する子の列乱す
橋畔に出でては消ゆる春の潮
桃の花子の繚乱の遊戯室
春の風邪シャツ一枚の油断かな
冷水にぷくと砂吐く浅蜊かな

  箏円
春の潮近づく島に墓見ゆる
まなじりに微熱捉へて春の風邪
砂出して浅蜊知りたる水の味
桃の花小首傾げて電話する
萌春や透かして青き軒の雨