第118回原宿句会
平成11年4月7日

   


  東人
採らるるもとるも泥着て睦五郎
人の輪の老いの華やぐ虚子忌かな
花筏漕ぎ行く舟の侏儒のごと
灰汁抜いて安全色の菠薐草
先生は木登り上手巣箱掛け

  千恵子
虚子の忌や覚めて忘れし夢中吟
巣穴出てまづ目の動く睦五郎
菠薐草茹でて足りるを知る暮し
菓子箱に春蚕を飼ひて寺の妻
巣箱よりこぼるる声や海光る

  法弘
よくしやべる妻ゐる不思議菠薐草
虚子の忌といふ岸壁のごときもの
引越してゆく子が呉れし巣箱かな
知覧とは花散る里と覚えけり
木に登り人見降ろせり睦五郎

  希覯子
花大根山の手線を半廻り
虚子の忌を修す不在者投票日
いびつなる巣箱が鳥に好まるる
菠薐草帯に産地の名を記す
シャッターに似たる瞼や睦五郎

  武甲
隠し読む母のレシピや菠薐草
睦五郎保身の術の泥エステ
春の園代はる代はるの肩車
巣箱作る釘打つ音のぎこちなし
虚子の忌や候補者連呼に暮れる街

  美子
透ける服着る日を思案する虚子忌
胸鰭の闘ふ構へ睦五郎
菠薐草押して立たせて鉢に盛る
這ひ這ひの掌にも脛にも桜蘂
巣箱の背「か」と「や」を違ふ児の名前

  正
菠薐草ほのかに甘き少年期
新旧の歳時記を繰る虚子忌かな
春一番聞こゆる声は巣箱より
のつそりと我が道を行く睦五郎
網棚に忘れものせり四月馬鹿

  白美
むつごろう岸まで千里万里かな
一列の登校児童チューリップ
ふりがなの鳥類図鑑巣箱かな
ほうれん草家人の皿の赤き茎
去年よりも領地増やして野蒜萌ゆ

  箏円
おさがりの袖で指さす巣箱かな
睦五郎己知りたる泥の仲
嬌声が帽子の後追ふ春一番
ほうれん草かかへて家路杖の先
直線に四肢の足跡春の雪

  翠月
親待ちの巣箱の小首右左
菜の花の奧へ奧への満喫度
春一番白波の吹く白き泡
有明の茜に群れる睦五郎
思ひ出のポパイの力菠薐草