第123回原宿句会
平成11年9月7日

   
兼題 牧水忌 栗ご飯 きりぎりす
席題 秋時雨


  東人
海も山も雲を育てて牧水忌
貴婦人に手を貸す馭者や秋時雨
はらからに理科系ひとり栗御飯
金襴の木魚の布団きりぎりす
石庭に音の影置ききりぎりす

  利孟
戦跡の壕に影置き百日紅
波音にまがふ島唄牧水忌
栗飯の指揉めば足る塩加減
仙人掌の氷菓翡翠の香の籠もる
読み淀む調書の癖字きりぎりす

  武甲
校庭の人文字乱し秋時雨
偏差値の変はらぬ焦り星月夜
螽?鳴き止みて知る帰宅かな
図書館の閑散として牧水忌
旬の字の目立つメニューや栗御飯

  笙
帯揚の紅が目に沁む風の盆
妨ぐるものなき声のきりぎりす
厨漏る香りご馳走栗御飯
もれてくる三味は「黒髪」牧水忌
立ち疲れ頭の重き向日葵

  法弘
眉秋風を吹いて故国へ金嬉老
見慣れざる猫ゐる秋の時雨かな
酔ひ覚めのヴィッテル旨し牧水忌
栗おこは母のエプロンいつも白
髭触るる低きに月やきりぎりす

  千恵子
おしやもじにほこと手応へ栗ご飯
秋時雨音立て歩む番鳩
真昼間に鳴く鶏や雁来紅
歯の痛み時に鋭くきりぎりす
牧水忌旅の鞄も古びけり

  希覯子
手相見の昼を灯せり秋時雨
栗飯や夫に副へ足す二三粒
牧水忌喜志子は母の歌仲間
酒徒多き俳諧仲間牧水忌
きりぎりす昆虫館に面通す

  翆月
しあはせの輪を食卓に栗御飯
打水に言葉掛け合ふ路地の仲
牧水忌問ふは悲哀の海の声
遠ざかる列車の汽笛秋時雨
草むらの何処よ声のきりぎりす

  箏円
秋時雨「乱輪舌」の調べ弾き終へし
呉須でひく唐草徳利牧水忌
ちちははと小さき妹栗ご飯
尽きせぬ思ひこほろぎの鳴きつのる
きりぎりす社への道草埋む

  白美
秋しぐれ端の黄ばみし名刺かな
秋の日やジムの自転車漕ぎてをり
朝駆けのズックを追ひてきりぎりす
大吟醸山廃仕込み牧水忌
一隅に幸せのあり栗御飯