第１２２回原宿句会
平成１１年８月９日

　 　

東人　 新生姜睡りの色を購はれけり 張りつきし音のくだけて揚げ花火 新涼や鍵穴に毫ほどの風 坂道のほこりを靴に長崎忌 腰で吊りあげて竿燈始まりぬ 　 　　　千恵子　 空拭きをすれば畳の鳴る新涼 如己堂は二畳一間や長崎忌 手花火をおそれ持つ子に手を添へる 遺骨無き伯父の忌日や凌霄花 添へられし味噌が自慢の新生姜 　 　　　武甲　 病棟に影の寄り添ひ遠花火 トンネルを子と駆け抜けて蝉時雨 逝きし名を記す無念や長崎忌 つんと来て子の目の潤み新生姜 新涼や眼鏡を濡らす滝飛沫 　 　　　法弘　 石あらば蹴り長崎の忌なりけり 忌の膳の糸より細き新生姜 新涼やぱりりと剥がす洗ひ張り 四方より屋敷を囲み雲の峰 胸押せば泣く人形や夜の秋

箏円　 手花火や電池で育つペット犬 新涼や口笛路地を曲がり来る 歳月の雲の切れ間や長崎忌 高層の窓に粘りし西日かな 貝の口生姜を刻むをみな居て 　 　　　美子　 日の丸を国旗と定め長崎忌 焼味噌と生姜で足りし父の昼 新涼やほつとしてゐる盆の窪 長崎忌殉職巡査の碑を仰ぐ 青のみの花火で済ます警邏班 　 　　　京子　 桶出でて今が目覚めの茄子の紺 ギヤマンの鉢につんもり胡瓜もみ 新涼や風音絶えて龍馬の碑 旧友の畑の手土産新生姜 「あの時」へ一分の黙長崎忌 　 　　　白美　 消えてのち音の響きて遠花火 しみじみと雨の色見る原爆忌 新涼や衣料すべてが五割引 はじかみや食べ忘れたか残したか 人柱伝説の橋蛍乱舞

翆月　 まぎれなく瀬音の中の初河鹿 新涼の川に小魚はねる音 仕掛け花火紅閃光の矢継ぎ早や 土佐作りおろし生姜で味生かし 励ましの鐘の音わたる長崎忌 　 　　　利孟　 迷走の火玉を囲ひ大花火 精霊舟思ひの数の灯を吊りて 水兵のごつき黒靴涼新た 捻り切る葉の嵩なして生姜売り 長崎忌鶴の港の鶴くづる