第128・9・30回原宿句会合併号
平成12年2月7日・3月7日・4月6日

   
兼題2 鶯 水仙 雪解
席題  冴え返る
兼題3 修二会 日永 三つ葉
席題  残雪
兼題4 夏蜜柑 佐保姫 鰊
席題  柳


      東人
琅カンのしろじろと裂け冴返る
ひとすぢの泥の水脈曳き雪解川
かざす手の影に水仙剪られけり
多喜二忌の築地警察冴返る
糞ひとつ藪に落として初音かな
暮れてなほ尖る残雪比良比叡
火は一瞬闇永劫の修二会かな
永き日のおしゃべり皇居奉仕団
泥の渦つぎつぎ流し三つ葉摘む
からからと小楢の径を芽木の風
糸柳ひらりと夕日かきまはす
なべて世の酸味はうすれ夏蜜柑
音深き水琴窟に花の雨
佐保姫の東宮御所に入り浸る
丘にこゑ鰊御殿の開館す

     千恵子
電飾の刻むリズムや寒ゆるむ
雪解宿烏賊の刺身の透き通る
山道の海へ開けて野水仙
冴え返る織り機に残る祖母の癖
鶯の声の転がる棚田かな
日永かな測量技師は二人連れ
火の粉掃くもの従へて御松明
椀の蓋取れば結びの三つ葉かな
供養塔並ぶ街道雪残る
黒鼻の犬に嗅がれてヒヤシンス
骨多き鰊を食ひて左遷の地
隣家は美人の家系桃の花
雨粒を重ね芽吹きの柳かな
佐保姫の湖に袖振る別れかな

     笙
炎のすだれ前へ々へと修二会かな
峯の肩軽く抱きて残る雪
結び文作る手稚し三つ葉芹
荒寺に鳥立ち騒ぐ日永かな
またひとつ盆梅展へ通ふ船
佐保姫の笑みやはらかき竜安寺
箱で売る春告魚光りて那珂湊
はずませて重さで選む夏みかん
人も木も立ちすくませて黄砂降る
風にふくらみて流るる柳絮かな

     白美
雪解けや皆山に向く六地蔵
追儺式了へて屋台の賑へる
空魚籠を仕舞ひて岸の冴返る
鶯や奧まで見える美容室
児の告げる内緒話や水仙花
お水取り眸を据ゑて僧走る
残雪の標高低き山にあり
人形の中に人形日長かな
引き寄せる枝に梅花の闌けりたる
三つ葉浮く汁物うまし知命かな

     美子
残雪に獣の形野良着干す
焔の竜の猛りて走るお松明
軽快に拡く掻き揚げ三葉芹
託児所に迎へを待つ児日の永き
堂祠る石柱並ぶ修二月会

     武甲
お松明暗夜にうねる万の顔
畦道のぬかるみ増えて三つ葉芹
リハビリの一歩の重み暮れ遅し
啓蟄や夜毎ざわめく調整池
残雪や遺跡現はる絹の町
マニキュアの爪が割り裂く夏蜜柑
徹夜して待つ開門や春の月
花の雨熱気の冷めぬ蹴球場
レーダーの捉へし影や鰊群来

     翠月
一つ摘み一つ残して苺狩り
残雪や飛び散る谷の水若し
永き日の火照りの残る庭の椅子
水取りの行の明りを追ふ目と目
せせらぎに指先の選る三葉芹
焼きたてを千切る鰊の北の味
かながきの文ゆるやかに花の昼
三角の絡む愛憎花嵐
爪立てて浸る平凡夏みかん
佐保姫の彩りの使者野山待つ

     箏円
掲示板鋲残りたり冴返る
うぐひすの調子はづれも初音かな
信仰の山を下りて雪解水
パピルスの姫の見据ゑる冬落暉
水仙の花開く音するやうな
残雪に放牧牛の動かざる
永き日や惣菜を買ひ足しに出る
紅蓮の火みづほの国の修二月会
春蘭や茶室へ向かふ石の道
すまし汁熨斗に結はれし糸三葉
夏みかん拭きこまれたる丸卓袱台
佐保姫の衣摺れの音野を渡る
有珠噴煙鰊曇りの空占むる
花冷えにためらふほどの薄日かな
佐保姫と心遊ばせゐる茶会

     正
コルセット脱げば身ほとり冴返る
初午や折敷に奠る油揚げ
鶯に目覚める朝の八ヶ岳
雪解けや船足疾きライン川
海を見る少女がひとり黄水仙
三つ葉包む新聞で知る離婚劇
モディリアニの女の顔の日永かな
風荒ぶ日のまだありぬ雪残る
燃え盛る修二会の僧の恋の榾
襤褸を着て還付を受ける納税期
睦み合ひセーヌのほとり柳絮とぶ
宰相の深き眠りや花曇
夏蜜柑酸いも甘いも年の劫
佐保姫の歌は翼に乗りて来る
北前船舫ひし浜や鰊群来

     美穂子
冴え返る駅に三日月放たれて
水仙のおのおの向きて壺に寄る
鶯や湯をふんだんに宿の朝
誰か来て雪解雫の乱れたる
春近し海広ごりて天抱く
永き日やときどき止まる練習曲
それぞれに火の粉の降りて修二会かな
残雪の高嶺遮る何も無し
春炬燵人形の瞳の潤みたり
三つ葉芹やさしき言葉添へて出す
白魚の背は一つづつ灯を点し
髪カットして佐保姫に出会ひけり
鰊干す黒子のごとき媼かな
青柳流れ見えざる運河の面
愚痴のみ込み夏柑の皮剥がしたり

     利孟
鳴き出しを重ねうぐひすなき切れず
荷を一つ受けて海市の港発つ
両の手に荷の修道女冴え返る
マウスクリックするたび香り水仙花
糠で拭く大黒柱雪解風

     萩宏
雪解沢軽き流れも魚不動
夏蜜柑酸いも甘いも年の劫
佐保姫の歌は翼に乗りて来る
北前船舫ひし浜や鰊群来