第6回原宿句会
平成3年6月11日 原宿オンデン

   
兼題 梅雨 海開き 祭  
席題 団扇  


 東人(戸恒東人)
刃物屋のにこりともせぬ団扇かな
頚に受く波の痛さや海開き
裏妙義雲を巻き取り梅雨に入る
左肘前に押し下げ祭笛

 内人(馬場敬二)
母と子の下駄の音そろう夏祭
一息に白粉おとし梅雨明ける
角番の力士髷結ふ団扇かな
梅雨長し部屋の片隅髪を梳く

 玄髪(玉井健雄)
神来して鎮守の杜に火の祭
山峡に消え入る木立梅雨深し
ひょっとこの背なに虚勢の渋団扇
長梅雨や碁がたき集め過ごしけり

 香里(高田香里)
窓をうつ音の激しさ梅雨の音
服えらぶ梅雨の朝の憂鬱に
濡れそぼつ手ぬぐいで拭く梅雨寒し


 浄(吉田浄)
梅雨の芝ボール追いせし水の糸
とりどりの柄競い咲く梅雨の傘
降り止みてゆらゆら上る梅雨の精

 健次(伊東健次)
祭にとせがむ子供に尻押され
ネックレス肌に張り付く梅雨の朝
応接に飾り置きたる団扇かな
梅雨晴れに白い球筋第一打

 大和(角田明義)
クーラーの風に涼しく団扇かな
梅雨晴れや陽光拡がるビルの上
梅雨空や背広小脇に汗を拭く
梅雨どきと鳴く声ひびくまわりの田

 外人(小山賢太郎)
海開き子らの声消す波の音
朝顔の花を震わす笛太鼓
夕暮れに団扇で隠す酒の顔
雨に濡れ紫陽花の花いきいきと


 京子(土田京子)
桐下駄とうちわの舞うや祇園まち
若かりし父の匂いや夏祭
梅雨寒むや足袋先白き初風炉かな
梅雨空に飛ぶ雲まだら風渡る

 白美(山之内三紀子)
白団扇うたたねの夫細目あけ
海開き演歌ロックに子等の声
梅雨の寺宿無し猫と身をくどく
十六の娘菓子焼く梅雨の午後

 千尋(高垣千尋)
寒イボや沈んでぬるい海開き
骨うちわ媼火守りのホルモン焼き
空調のオフィスにけぶる無音の梅雨
梅雨晴れの午後の外出ハイヒール

 利孟(森喬)
入梅や溶接の火のしきり落つ
振り回す破れ団扇や声枯れ嗄れ
梅雨空や鶏身ぶるいしまた眠る
梅雨寒や内より濡れし雨合羽