第15回原宿句会
平成3年11月26日

   
兼題 雪囲い 鴨 毛糸編む
席題 木枯し


  東 人
日を散らす四国三郎浮寝鳥
扱ぐ藁の藁のしなりや雪圍ひ
木枯しや川を隔てて藍屋敷
扉の奥は不動明王毛糸編む

  利 孟
吊さるゝ鴨のやはらな瞼かな
棕櫚縄の飾り結びや雪圍ひ
凩や肩突き出してセロケース
鴨すきや「ここ禁猟の湖やさき」

  希覯子
雪圍ひ家それぞれの砦なす
凩や灯一つの摩天楼
鬨を擧ぐ所作なく鴨の陣構へ
小言妻齢隠せず毛糸編む

  千 尋
鴨鍋の出汁の熱きに目うるむ
木枯しや母子添ひ寝の垣の外
毛糸編む祖母の指根の古ダイヤ
毛糸編む朋友の下髪鐘に搖る

  内 人
茶柱の浮き立つ朝や雪圍ひ
三回忌なんとはなしに毛糸編む
雪圍ひ笑ひさざめく影法師
凩や裾乱し来る通ひ妻

  千惠子
雪圍ひして寝る村の小ささよ
雪圍ひ昼なほ暗き家となりぬ
鴨眠る葦原襖深ぶかと
毛糸編む思ひ出の母若かりき

  白 美
なにほどの木も無き庭の雪圍ひ
凩やバスの尾燈の遠のけり
焙じ茶を啜りて古き毛糸編む
ここを瀬とコンクリ岸に鴨の群

  美 子
凩に新月は目を細めたる
遠方に鴨あり北の丸警護
雪囲する隣人の声高に
記者が訪ふ大魔刻に毛糸編む

  健 次
木枯しや自転車ハンドル素手のまま
湯気浴びて直に伸びたる毛糸編む
多摩川の水面乱して鴨眠る
薄化粧大地の面と雪圍ひ

  香 里
目をあわせほどいてまいて毛糸編み
手をこすり窓からのぞく雪囲い
父のぞく娘の手もと毛糸編み

  玄 髪
初孫の一歳大きめ毛糸編む
湯けむりの中ギャルのロケ雪圍ひ
陸奥の名も無き沼に鴨満てり

  武 甲
出稼ぎの父思ひつつ雪圍ひ
毛糸編む妻を横目にひとり酒
ため池に群れを離れし鴨一羽
木枯しにどっとよろめくわが子かな

  京 子
鴨鍋や肩寄せ合ひつ分け合ひつ
雪吊りを破れ蛇の目に姫小松
鴨の恋味なへだたり動かざる
ヌーヴォーを賞でて千鳥の木枯しや

  重 孝
朝靄の遠方にある鴨の声
嫋やかに傘さしたるか雪圍ひ
凩や熱き二人を寄り添はす
毛糸編みひと恋しさに頬ずりす