141回原宿句会
平成13年3月8日


   


  東人
溶岩原に寄せる濤音椿咲く
比良八荒所々に待機の消防車
啓蟄や炎の黒き泰男の絵
春野征くなかに還らぬ防人も
   (溝の口「亀屋」
忘れ得ぬ旅籠屋亀屋亀の鳴く

  武甲
御神火の島へ誘ふ椿かな
比良八荒伍してレースの覇を競うふ
土を切り起こして進む春野かな
亀鳴くや一期一会の寺講話
春疾風ドミノ倒しの駐輪車

  千恵子
灰汁とれば青める色に蜆汁
垂直に落ちし椿の空仰ぐ
亀鳴くや出さずじまひのラブレター
魚の目の乾きやすくて比良八荒
若牛の瞳の濡れやすく春野かな

  利孟
亀啼くや食後の甘き燕の巣
柵続く限りの山羊の春野かな
夜を馳せる法師の頭巾比良八荒
白塗りの女御の乳房亀鳴けり
藪椿「隠れ」伝へし聖母像

  筝円
文の届きてゆくりなく春に居る
みはるかすかぎり春の野翼もて
比良八荒湖は東へ動くなり
   (祝利孟退官
亀鳴くや五感ゆるりと時過ぐる
等身大の看板笑みて春一番

  白美
春寒や黙秘続ける網の中
クレヨンの紙まで染めて春野かな
比良八荒一刀彫の阿修羅像
鍵穴を一つ増やして亀の鳴く
蘭りたる椿の悲し三宅島

  正
紅の浄土となりし椿寺
観音の扉を閉ざし比良八荒
ルノワールの少女戯る春野かな
亀鳴くや鑑真和上の朱の衣
天平の甍に遊ぶ春の蝶

  和博
紅梅や愛宕八十五段坂
春野には黄と青の筋うねりたる
柔らかき潮の香りや春の海
猿沢の池の采女や亀の鳴く
八荒や鬼の棲みたる修験堂

  美穂子
比良八荒湖に大蛇を描きけり
亀鳴くや人にそれぞれ履歴あり
笑ふとも泣くとも見えて梅一輪
フレアーが風起こしゆく春の野辺
日の入りて椿妖しく潜みけり

  翠月
比良八荒湖波の千切れ白飛沫
水草に尾のみの動き子持鮒
囲む顔火照りほてりの牡丹鍋
ひんやりの風の頬刺す春のかな
卵生み終へて亀泣くてふ便り

  明
亀啼くを幾度待ちたり浦島は
風起きて春観覧車雲に乗り
春の野に兎とびはね月に入る
比良八荒波を背負ひてとんび舞ふ
椿落ち波紋静かに池渡る

  希覯子
比良八荒近江八景一舐めに
ダムと化す運命失せたる春野かな
人に媚びることなど知らず藪椿
亀鳴くや三四郎池一めぐり
蹲いに椿浮かせて客を待つ