第30回原宿句会
平成4年11月21〜3日 大津福井

   
 第30回記念琵琶湖吟行会

第一句会(大津 琵琶湖畔 おおみ荘)


  東 人
時雨るるも霽るるも湖国山低し
流れ行く崩れえり簀や初時雨
対岸に足をかけたる冬の虹
「信長」といふ酒湖国時雨けり
芦刈の近江の風に吹かれけり
みづうみに落つる冬日やえりの舟
凩や南蛮菓子の欠片喰み
一雙の幅の水尾あり蘆刈舟
芦原や湖国の橋は弓なりに
黄昏れて峰より颪す比良比叡

  美  子
冬の旅手に持ち歩く小さき菓子
振舞ひにカステーラあり背に時雨
比良山を正面に据ゑ寒茜
櫨紅葉信長公の緋の合羽
湖の彩吸ひ上げし冬の虹
ひつじ田の中に現はる歴史館
シェフの焼く南蛮菓子や初時雨
蘆眺む旅の身なりも様々に
時雨るるや兵もまた旅人も
再会の話に沸けり鴨の鍋

  杜  子
しぐるるや信長着たる革袴
寒夕焼空に切り入る裏比叡
淡の湖浮きたる鳥の背に時雨
鴨鍋のほこほこ煮ゆる座敷かな
晩菊や比良も比叡も黄昏るる
時雨るるやフロントグラスの守り札
よき人のよき声響く冬の虹
枯れ葦を見し夜は葦のざわめける
つかれ目に枯葦原のそよぎかな
末枯やぽつんと見ゆる近江富士

  利  孟
刈葦の束寄せ積みや比良暮るる
ごろた石積む舟溜り番鴨
閘門の重き鉄扉や水涸るる
えりの網越ゆる大浪鳰の湖
肥後守出し悪童のよしの笛
焙烙で焼く南蛮菓子柿紅葉
鴨の影よぎりポプラの並木かな
冬の虹安土土産の金平糖
竹の春シェフ帽が焼くカルメ焼き
逢坂へ車の列や枯木星

  千 恵 子
冬の虹近江の湖に突き刺さる
昏れなずむ仕舞田に犬黙し立つ
降り立てば時雨迎への大津駅
冬映えの湖に浮寝の鴨の影
南蛮の菓子に安土の秋深む
葦原を飛ぶ鳥冬の風に散る
カルメラや安土城趾の大銀杏
葦原に風の光りて冬来る
初時雨昏れゆく湖に舟もやる
近江富士頂きに重き冬の雲

  梅  艸
野洲川を越えて冬野となりにけり
着ぶくれて湖岸の影の十余り
万歩計三千と九歩で葦に会ふ
虹を見る雲井の彼方の越の冬
湖の波綱手緩みし冬霞
風に揺る蘆火の烟鳰の海
墨染めの袖抜けし風葦搖れる
葦戦ぐ落ちる義仲裏比叡
冬霞安土城址の金平糖
冬の月湖西の人を映しけり

  玄  髪
鴨鍋や葛切り入れる細き指
風止みて雄松ヶ里の冬の虹
信長の野望の跡に山もみぢ
左手で切るカステイラ時雨やむ
おおみ荘なにわ銀行の隣なり
暮れ早し近江大橋有料道路
短日や雲が峰はふ火事のごと

  白  美
湖昏れて西に傾く蘆の花
銀杏散る南蛮菓子の軽き味
鉄冑を屋根に置きたる冬館
冬近しほうろく鍋の菓子厚し
寒夕焼人影もなき船溜り
芦刈の田に残りたる黒木立
天のなきコックの帽子暮の秋
枯木立数へしあとの黄のリボン
近江富士叡山を背に冬夕焼
蘆の花古き木舟の揺らぎをり

  京  子
鐘楼を影絵に剪りて秋夕焼
法堂の柵に閑居の冬の蜘蛛
去りがての陽を追ひかけて鰯雲
月一つ動かず夜景飛びすさる
雲誘ふ比叡の山や暮早し
枯野行く薄暮の中に近江富士
刈田行く畔に群れたる青き草
俄雨上がりて落葉音を消す

  由  朗
豊作の田を移り行く雲の影
暮れゆけば灯のごとし黄落葉
残照の高きに映る近江富士・
おおみ荘騒ぎの中の菊の花
琵琶湖畔車窓に流るる芒の穂
はるかなる嶺より高く鳶舞ふ
電車過ぎし線路の土手に虫の声
第二句会(寿長生の里)


  東  人
黄落や唐橋までを力漕す
岩肌にカヌー休ませ峽紅葉
石山に厳つみあげ実南天

  杜  子
しじみ飯炊くこつ教へ木の実降る
釣竿の撓ひて瀬田の秋深し
石山の石に嵩足す落紅葉

  白  美
照紅葉大津の鬼も染めにけり
枯菊や巨石の群の天を突き
黄落や十三札所納め箱

  利  孟
散銀杏艇庫の高き扉かな
実南天石山寺のさゞれ石
式部絵図様々紅葉時雨かな

  美  子
二日目は女が残る冬の旅
冬の陽に苔の乾きて多宝塔
他人の撞く鐘を聴きをり紅葉寺

  京  子
カヤックの若人まぶしはぜ紅葉
秋たけて丹塗りの水車リズミカル
山里に孤高を保ち吾亦紅

  千 恵 子
檜ぶきの屋根の紅葉や旅終る
紅葉の賀石山寺の式部展
病気平癒の絵馬鳴る堂に紅葉散る
第三句会の壱 (福井・豊岡邸)
袋回し まつげ 鮨 塀 友 寄進 襖


  杜  子
山茶花や塀の下なる消火栓
寄進簿の楷書の署名初あられ
黄落やマネキン長きまつげ持つ
襖絵の深山幽谷そぞろ寒
車降り友等と仰ぐ冬銀河
初時雨ややに馴じみし鮒の鮨

  東  人
塀越しに見る雪吊りや露天風呂
大友の皇子の湖国や銀杏散る
小春日の常陸訛りのまつげかな
小襖や茶花に瀬田の石蕗の花
鱒鮨や特急雷鳥湖西線
黄落や寄進提燈本堂に

  利  孟
紺ショール巻き付けて買ふ鱒の鮨
秋神楽金一封と寄進札
藁屋根をのべ広々と柿襖
まんさくの一葉残りて煉瓦塀
悪友と互ひに呼びて炉辺話
文化祭二枚合はせて貼るまつげ

  京  子
宮参りまつげかすめて散る紅葉
ふな鮨の香り懐かし湖の国
朱夏の友紅葉の峽をかろがろと
塀越しに羽衣紅葉吹きこぼれ
寄進碑に「和泉国」や霰過ぐ
襖絵も共に寿ぐ松の内

  千 恵 子
布団敷く男襖を明け放ち
鳰の海しぐれてまつげも濡れそぼる
紅葉照る白塀に猫のひそみ足
友の家訪ふ福井の秋深し
銀杏散る階段手すりの寄進名
鮒鮨の看板にもみじしきりなり

  白  美
紅葉散る頼朝寄進の多宝塔
堀割の崩れし塀の薮枯
首白き友の夜ごとの寒やいと
鮒の鮨薄き切れはし冬日かな
冬めきてまつげに白きもの見つけ
草枯れて襖の取っ手こはれたり
第三句会の弐 (福井・豊岡邸)
袋回し 二 スカート 旅 前 ぽっくり 札


  東  人
越前の俄か湯町や冬銀河
葦刈りや旅のはじめの長命寺
老優のオスカートロフィ散る紅葉
湖国にもぽっくり寺や木の実降る
黄落の納経帖干す札所かな
比良比叡二峰跼る冬霞

  杜  子
一茶忌や二枚重ねる掛布団
こがらしや万札で買ふ特急券
黄落やミニスカートが先を行く
二十前の男子の書斎冬林檎
旅かばんおろし球根埋めたり
ぽっくりの舞妓背高し寒茜

  白  美
二の腕の刺青の見えて酉の市
冬の朝児のスカートの寝押しぐせ
ぽっくりの鈴の音色や七五三
冬日向旅行鞄を買ひ求む
苔むせし北前船に時雨ふる
黄落や観音模写の札めぐり

  利孟
「冬の旅」ラジオに流れ夕霧忌
越前の蟹を食ふて無口なり
香煙のぽっくり寺や小六月
スカートの余り毛糸で編む帽子
時雨るるや竹田街道札の辻
夢二の忌売り子の白きヘアバンド

  京  子
札止めの天覧相撲秋深し
前山の紅葉を分けて奇岩佇つ
小春日にキュロットスカート華やぎて
ぽっこいの歩みあやふげ七五三
旅にいて思ひがけなき冬銀河
二の酉の向ふはちまき豆しぼり

  千 恵 子
布団敷く男襖を明け放ち
鳰の海しぐれてまつげも濡れそぼる
紅葉照る白塀に猫のひそみ足
友の家訪ふ福井の秋深し
銀杏散る階段手すりの寄進名
鮒鮨の看板にもみじしきりなり