第29回原宿句会
平成4年11月16日

   
兼題 短日 酉の市 返り花
席題 都鳥


            東 人
短日や終値赤き電光板
葛飾を削る川波百合鴎
ばら売りの面子海贏独楽年の市
警棒の頭触れゆく返り花

            千 尋
短日や舞台稽古の声とほる
図書室の窓にかかるや返り花
狛犬に預けられし子年の市
プカプカとも目を合はさぬ都鳥

            美 子
蔵のある家壊されて返り花
算盤と刃物の街に年の市
ネル足袋に福助の顔歳の市
電柱に箒すっくと暮易し

            白 美
都鳥幼き衛士の大欠伸
交差する一本〆や酉の市
短日や答案用紙白きまま
芸人の墓の裏側返り花

            健 次
去年よりも熊手小さし酉の市
乱れたる大地の呼吸か狂ひ花
桟橋にゆりかもめ群れ出航す
短日や麓に降りる道昏し

            武 甲
貴、りえの似顔絵並ぶ酉の市
短日や鎚の音忙しニュータウン
喧噪の去りて水辺の返り花
ゆりかもめ歌詠み集ふ二重橋

            千 恵 子
返り咲くタンポポに涙みられたり
酉の市抜ければ暗き街に入る
短日の足裏に畳のぬくみかな
都鳥迷子泣いて橋昏れる

            利 孟
泥を吐く浚渫船やゆりかもめ
短日やフロント嬢の赤ジャケツ
帰り花舞ひたる鬼の婆沙羅髪
千両の張子の箱や熊手市

            京 子
おろしやの現在を問ひたや都鳥
義景の湯殿のあたり返り花
短日や俗名のまま稚児の墓
それぞれの夫婦模様や酉の市

            内 人
短日や鉄棒の子の影長し
返り花童背負ひて百度踏む
酉の市手締めて笑ふおかめかな
返り花綱の欠けたる触れ太鼓

            希 覯 子
酉の市ついで詣りに鬼子母神
短日やエレベーターに配膳車
迷ひ来しか皇居のお濠都鳥
都電道枕木垣に返り花

            香 里
街灯を独り占めする返り花
短日やパジャマ姿の長電話
短日や残り少なきカレンダー
言問や水掻き紅き都鳥

            重 孝
年の市半月だけの賑やかさ
短日やハンザマストに刻を知る
返り花愛しき人に会ひたくて
スワローズ右に左に都鳥

            英 樹
短日やアトリエの灯のはや点り