第38回原宿句会
平成5年5月20日

   
兼題 著莪 出水 夜釣り
席題 鱧


            東 人
火袋に散らばる小銭著莪の花
土嚢より泥の溶けゆく出水かな
鼻といふ岩に寝待ちの夜釣かな
さばかれし身を眺めゐる鱧の貌

            利 孟
引綱の赤き太房や著莪の花
田に走る魚の背鰭や出水引く
風になる鈴を聞き分け夜釣りかな
鱧くねり己が尾の位置定まれり

            千 恵 子
闇に立つ人声高し梅雨出水
骨切りの刃音一徹鱧漁師
帯ゆるく締めたる母や著莪開く
夜釣人闇に釣果を聞き合へり

            千 尋
夜釣来てとはず語りや河童渕
鱧棲むや海越ゆ橋のこのあたり
慶應の出水刻める黒柱
梅雨出水半鐘音のくぐもれり

            武 甲
梅雨出水警戒水位に父走る
夜釣人飲み友達を連れ帰る
去り難き浪速の一夜鱧料理
夜釣火や沖に筋なす波浮港

            美 子
一隅にして一面著莪の花
鈴の音に急ぐ気配もなき夜釣
花寄せの広口の篭著莪の花
水流の太きを束ねゆく出水

            白 美
水の字の瓦も泥に梅雨出水
御佛に縁の篤し切られ鱧
とと待つと寝はぐれる児や夜釣船
著莪の咲く直ることなき人の家

            詩 乃(清原)
夜釣舟軋みて人語途絶えけり
あたたかき闇に母恋ふ夜釣かな
著莪咲けり母の好みし花知らず
青き魚夜釣の糸に吸まれ跳ぬ

            健 次
土手原に自転車寝かす夜釣かな
終電後橋より望む夜釣の灯
ブランコをこぐ足下に著莪の花
足下のぬかるみなくして出水増え

            重 孝
墨の香に便りを載せて著莪の花
にぎり飯腰にくくりて夜釣かな
白無垢の衣装まとひて膳の鱧
島原をいかにせんかとまた出水

            英 樹
著莪の花水車のしぶき浴びにけり
舞台の跳ね旅芸人の夜釣かな
庭先に家鴨の泳ぐ出水かな
大阪で修行を終へて鱧料理

            梅 艸
足下の闇せり上がる夜釣かな
押し花の紫うすし著莪一輪
食堂車で出水の村を過ぎにけり
緑陰の底なる著莪や午後三時

            希 覯 子
八丈の磯知りつくす夜釣りかな
淡路島民宿によき鱧料理
傾斜地にさからひ著莪の真直ぐに
出水あとドレミファ橋は芥ため

            京 子
千切られし紅緒残して出水引く
波止の影程よく離れ夜釣りかな
梅雨出水蝋燭で読む古新聞
若の花快進撃す鱧落し