第39回原宿句会
平成5年6月7日

   
四十回目前記念土生重次師指導句会
兼題 夜濯 青簾 半夏生  
席題 兜虫


            重 次
つながれて四五歩のあゆみ兜虫
夜濯のこまめに水を流す音
廃材の炎の暗し半夏生
灯の入りて水の匂ひの青簾

            東 人
仕出し物とどく騒ぎや青簾
水墨の墨よくすべり半夏生
夜濯のぱんぱんと襟伸ばしをり
飛び込んで来て翅使ふ兜虫

            利 孟
半夏生水の貯まりし傘袋
夜すすぎの反転続く洗濯機
青簾座椅子の底の丸き穴
一息に畳めぬ薄羽甲虫

            希 覯 子
兜虫買ふや朽木の床を添へ
山荘を開けて半夏の風入るる
夜濯のものベランダの内に吊る
青簾年金暮し始まりて

            白 美
半夏生背中にボタン多き服
抗へば脚切れさうな兜虫
水盤に花片ひとひら青簾
夜濯や放歌高吟親しみぬ

            梅 艸
水滴があみだくじ引く青簾
夜濯や三十ワットの母の背ナ
海空のやや濁りをり半夏生
置き時計深閑と鳴って半夏雨

            英 樹
香を焚く煙の洩るる青簾
半夏生まだ雛を抱く十姉妹
兜虫子等のうわさの雑木林
子沢山の夜濯のもの吹かれをり

           香 里
こつこつと柱にあたる青簾
夜濯の濡れし手で出る電話口
分厚き本枕になりし青簾
甲虫脱脂綿に近づく角二つ

            詩 乃
ひとり居の夜濯の衣ひと握り
簾越しの声新しき夫婦かな
名匠が編む不揃ひの青簾
さしかくる傘に母の名半夏雨

            京 子
相やぐら幹に組み打つ兜虫
半夏雨畦に田植機縛られて
夜濯を干せば三つ四つ星座かな
巻き上げる手の明暗や青簾

            千 尋
夜濯のハンケチたたく脱衣場
手にとれるにほひ懐かし兜虫
半夏生子は幾人や雨合羽
簾ごし石鹸少女のかよふ路地

            千 恵 子
夜濯や月光に似し白きもの
兜虫獲る子に父のつき歩く
青簾母の独居つつが無し
少女らの産毛キラキラ半夏生

            千 里
尾を下げて黒猫のそり半夏生
とめどなき文したためし半夏生
ひじ枕尻をかきかき半夏生
夜濯ぎの水泡はじけ一人言

            武 甲
夜濯や身重の妻の里帰り
苗そよぐ水面の光る半夏かな
青簾赤子をあやす細き声
獣道分け入る人や甲虫

            健 次
兜虫やっとつかまえ堆肥踏む
半夏にも気象衛星雲写し
陽の入るを止めてたゆたふ青簾
アパートに夜濯ぎの音伝播する