第43回原宿句会
平成5年9月22日

   
兼題 霧 糸瓜 秋灯
席題 凶作


            東 人
タンカーの夜霧を崩しくづし来る
凶作田青めて山河ひきしまる
秋灯や首にリボンの恋衣
熟れ細り糸瓜の種のづれる音

            利 孟
秋灯や紙で蓋する漆桶
雨粒の荒き響きや糸瓜棚
凶年や実習田のつなぎ服
音わづか遠のき霧の谷戸の底

            千 恵 子
秋灯影絵のきつね鳴き上手
不作語る若き農夫の国訛り
へちま棚急行停まらぬ駅勤め
霧しとど扉の把手も濡れにけり

            白 木
秋灯や要かなめの小町針
朝霧のなだるるごとく走りけり
凶作の田に広々と空があり
長瓜のはみ出すままに水漬かれり

            英 樹
スケボーの少年の行く霧の夜
夕霧やゆつくり戻る渡し舟
末成の糸瓜は今朝の酢の物に
秋の燈や螺旋階段登り来て

            美 子
髪形を男に似せて秋灯下
廃屋に霧と籐椅子住まひけり
眼も口も塞がれている霧の山
病人の薄き身体長糸瓜

            健 次
白線を頼りに走る霧の道
糸瓜揺れ荘子読む目に影動き
凶作や鳥篭の下雀をり
秋燈や渾沌の意を求めたり

            希 覯 子
繙くは逆引辞典秋灯下
糸瓜垂れ無人駅舎と思はれず
捨て案山子不作の年となりにけり
ランタンを霧に灯して舫ひ舟

            京 子
へちま水首にはたいて伸びあがる
風に乗る鷺悠々と霧の中
ぽつねんと媼店守り秋灯
不作田の闇突き抜けて家並まで

            白 美
贋ダイヤ飾りし瓶の糸瓜水
糸瓜浮くプールの柵の破れかな
秋の燈や児の口の端に細き髪
川霧や戻らぬ家に忘れ物

            法 弘
秋灯下法華七喩に親しみて
娘らの美貌を言へり凶作地
使はざる井戸に鉄蓋糸瓜もぐ
「死者の書」を読む声らしき霧の中

            千 里
中年の大欠伸して糸瓜かな
寺霧らふ杉木立より鳥の声
秋灯の夢より醒めて眼鏡拭く
秋灯や夢二の描く細面

            千 尋
波止のごと霧立つビルの谷間なり
絵日記のヘチマを競ふ登校日
秋の灯を頬にともせる家路かな

            武 甲
喧噪の去りしペンション糸瓜棚
朝霧や「ランドマーク」の長い列
凶作や高値切り売りする主人
秋の灯の川面に揺るる終列車