第42回原宿句会
平成5年8月24日

   
兼題 萩 居待月 とろろ汁
席題 落鮎


            東 人
掃き寄せて紅白の塵萩の門
ピスタチオの割れぬ一粒居待月
落鮎の背びれ並びて光りけり
剃りあとのややむず痒しとろろ汁

            白 美
刺繍糸選びつかれて居待月
萩こぼれ間口一間の洗濯屋
棘抜きに錆の浮き出て鮎落ちる
木製の改札口閉ぢとろろ汁

            希 覯 子
山門に竹の閂萩の寺
居待月警察寮は武衣を干す
名物にとろろ汁あり平家邑
落鮎てふ和菓子もありぬ長良川

            白 木
落鮎の火串に腸の乾びけり
とろろ汁ざつとからめて三口なり
三ッ指に迎へられけり居待月
小流れの小さき渦やこぼれ萩

            利 孟
石寄せて狭む川筋下り鮎
家移りの荷出せし部屋や夏の萩
こぼれやすき道産米やとろろ汁
出汁の色薄きたこ焼居待月

            千 恵 子
居待月隣は夫婦喧嘩らし
とろろ汁先の剥げたる塗りの箸
落ち鮎のしばし動かず簗の昼
ひそひそと猫来る道や萩こぼる

            玄 髪
恨み目の網にかかりし下り鮎
ありし日の父の白髭とろろ汁
長雨に打たれし萩のこぼれけり
今日もまた雲居にもとむ居待月

            英 樹
胡坐してジグソーパズル居待月
麦とろや痒くなりたる口の端
せがまれて絵本を開く居待月
萩咲くや筆で書かれし太平記

            健 次
三方を納戸に仕舞ひ居待月
ハイキングかいなに触れる萩の花
擂り鉢を股にはさみてとろろ汁
握り解きすり抜ける銛落ち鮎に

            京 子
庫裡しづか尼僧ふるまふとろろ汁
日向灘嵐のあとの居待月
二つ三つ萩咲き染めし帝釈天

            梅 艸
  居待月浮かべて海の眠りをり
居待月酔客路上で諍へり
萩咲いて汲み取り口の厚き板
口蓋に山の精満つとろろ汁

            香 里
居待月そっと玄関開けにけり
とろろ汁精進料理試しけり
萩の野やリュック背に待つバス時間

            重 孝
今の我ただただ贅沢とろろ汁
萩前に落とす涙に何想ふ