第54回原宿句会
平成6年5月23日

   
兼題 梅酒 玉葱 蠅
席題 緑蔭


            東 人
緑蔭や風のもち去る日のかけら
玉葱のふくらみ露は安房は雨
住みついて仔犬離れぬ蝿一匹
ほかほかと梅酒の梅の種の皺

            白 美
腹薬なりと貼り紙梅酒瓶
緑蔭やアンの青春回し読む
夜の戸を開けて一匹蝿逃がす
不意の客玉葱晒す竹の笊

            美 子
飢餓の子の眼の蝿の動かざる
緑蔭に見え隠れする白き帯
玉葱を厨の軒へ吊るし置く
屑梅で作りし梅酒飲み頃に

            利 孟
太梁や湿り気多き蝿の口
手つかずのままの梅酒と転勤す
玉葱の嵩たっぷりとサラダバー
緑蔭や獅子の描かるる警備楯

            千 尋
古梅酒下戸の大家にふるまへり
緑蔭や予鈴で走る一限目
皮ごろも落とし玉葱透きとほる
尾根づたひ白きケルンに蝿光る

            武 甲
玉葱の皮むく父の非番かな
老い知らぬ母の早業蝿を打つ
湯上りの体を冷ます梅酒かな
緑蔭のベンチで息抜く外回り

            法 弘
大阪は十三の蝿かまびすし
緑蔭に来て一輪車横倒し
梅酒ソーダ人妻とうちとけてをり
玉葱剥くだんだんどうでもよくなって

            千 恵 子
髪冷えるまで緑蔭に憩ひけり
蝿止まるテレビ画面に美男かな
梅酒飲む明日は祖母の墓訪はな
玉葱を刻んで暮しに倦みてをり

            千 里
玉葱の青筋ありて白きこと
夕雲や玉葱刻む男あり
逃げ出よ硝子戸に挟まれし蝿
夕暮れや単身赴任ハエが友

            浄
硝子戸に蝿が頭突くや雨上り
緑蔭や二人でごろりウォークマン
嫁姑涙にじむよ梅の酒
カタカタと刻む玉葱塾通ひ

            萩 宏
鎮座する流しの奥の梅酒瓶
緑蔭に揺れる陽射しや読後感
手で煽ぎ蝿に逃げ道指し示し
しゃりしゃりの玉葱誘ふ透き小鉢

            希 覯 子
梅酒棚壜になで肩怒り肩
軒下に玉葱干さる振り分けに
蝿叩きマガジンラックの場所を得て

            健 次
飛ぶ蝿に剣豪真似て箸を出し
玉葱や土を押し退け頭出す
腹這ひて飽きず虫追ふ緑蔭に
実を狙ひ長箸で突く梅酒かな