第55回原宿句会
平成6年6月20日

   
兼題 梅雨 ハンカチ 扇
席題 明易し


            東 人
早送りできぬBS明易し
白扇をほどきて闇の香を入るる
ハンカチの染みに憶えの課の旅行
梅雨寒や音飛びとびのプリンター

            英 樹
梅雨に入る荒磯の果ての捨てバイク
山水に旅のハンカチ浸しけり
幕間の白扇使ふ男役
白扇を膝に一ト打ちして開く

            千 恵 子
さり気なく女の意地や白扇
祖母の忌や手熨斗で伸ばすハンカチーフ
明易し人語ひそひそ通りけり
軒下に寄り添ふ猫や梅雨しとど

            武 甲
白扇を煽ぎ捨身の石を打つ
ハンケチを翳して駆ける通り雨
短夜や兼題三句成り難し
敷石の色艶増して梅雨来たる

            美 子
寝たる児の顎が銜へる汗拭
梅雨寒や鴉の声の先細り
教官となりし夫在り明易し
隣席の人の扇の風貰ふ

            法 弘
梅雨寒し棹にはりつくデモの旗
短夜のいよよ短し妻を得て
ハンカチやひとしきり泣き「さて実は」
扇よりさざなみ立つは余呉の湖

            利 孟
梅雨晴間腹で抱へて花の鉢
明易の鉄橋に燈の寝台車
上着より抜きしジタンと新扇
応援の隅止めかぶるハンカチーフ

            白 美
明け易き天窓に入る鳥の声
白扇の揺らぎて碁盤暮れ泥む
小半時たたずみて待つ梅雨の恋
夜半洗ふハンカチ君に借りしもの

            健 次
梅雨寒や食管制度の座談会
ハンカチも並べ干したりホームレス
噺家や変幻自在の扇子持ち
明易し中学受験の合宿所

            京 子
濃くうすく縞目を描く走り梅雨
残り香は隣座席の絹扇
手の中のハンカチ紅し言葉待つ

            千 里
梅雨の夜の秒針のろき置時計
角取りに待ったと言へず扇さす
青水無月水藻うごめく水面かな
短夜や妻の寝息に耳澄ます

            萩 宏
入梅や古刹の甍くろぐろと
ハンカチの汚れ知らずやガキ大将
明易しさへづり誘ふ木立かな
帯にさす細身の扇すすむ盃