第57回原宿句会
平成7年7月9日

   
   ほほづき市吟行


  杜子
沿道の物の見飽かぬ鬼灯市
鬼灯市雷除けをまづ求め
群衆に混じりて四万六千日
買はで去る千生り酸漿ほめながら
男来て値引きささやく鬼灯市
交番の前で落ち合ふ鴎外忌
切り売りのメロンの甘さ合羽橋
お星様へひらがなで書く願ひかな

  香里
威勢よき若き主人の鬼灯市
鬼灯市二鉢合はせてさばきけり
鬼灯市あたらぬように鉢を抱く

  法弘
待ち合はせまでは一人のほほづき市
二階建てバス来る四万六千日
待ち合はせは交番四万六千日
江戸風鈴鳴れり吾妻橋交番
雨恋し四万六千日の街
利孟氏の帽子めじるし酸漿市
鬼灯市伝法なるは女声
ことのほか佳きは祭髪の女
浴衣の娘のお尻ばかりを追ふは犬
「雷除」買ひて女難を恐れざる
涼しさよ七難避くる観世音
南無観世音菩薩と唱へゐる盛夏
羅を着て足首のサロンパス
牛のやうなる白人女ゐて暑し
浴衣着て耳朶の上気のあからさま
胸元に差すは雷除けの札
浅草は暑し六区の踊り子ゐて
ほほづき市抜けてフランス座の前に
フランス座より冷房の風洩るる
縁台に出て三世代一家族

  希覯子
香煙を奪ひ六千日様の善男に
鬼灯市手甲の賣子耳飾り
鬼灯市抜け堂裏の植木市
帽をとり雷除けの守り受く
妊れる鬼灯市の賣子かな

  浄
差し上げる鬼灯鉢やシャッター音
客待ちて風鈴の音不揃ひに
目線追ふ鬼灯よりも紅き頬
願かけて四萬六千日貰ひ過ぎ
みつぐ君けふは浴衣の袖触れて
河童忌や護符の煙を煽ぎ寄す

  千恵子
四万六千日の香煙人盛る
雷除けの護符は三角大甍
青くさく匂ふ鬼灯夕の市
簾なすほほづき鉢や小屋昏れる
鬼灯や朱き実青き実一つ鉢
立喰ひのメロン薄切り夕灯

  京子
吊りしのぶ船頭ひょろりと竿をさす
鬼燈市高々はふるお賽銭
ぞめきゆくゆかたの男金ピアス
絽の袈裟でほほづき一鉢買ひてゆく
走馬燈遠くて近き夢ばなし

  美子
売り声の近在訛り鬼灯市
遣り繰りをつけて集まる鬼灯市
鬼灯をばりばり裂いて裸体にす
ほほづきの実に爪かけてゐる殺意
駆け引きの縁を結びし鬼灯市
鬼灯市大提灯の下潜る
ほほづきを鳴らすは高層階に住み

  利孟
ほほづき市大提灯の底に龍
山積みの手籠を壁にほほづき屋
雷除けのお札逆さに袋入り
二日間限りと雷除けを積む
雷除けの菱形に捺す御宝印
筆太の達磨右向く渋団扇
涼風や伝法院の置き囲ひ
ほほづきの鉢を小声の値引かな
乾きたる海酸漿の飴の色
灯に透けし青酸漿に丸き影
おもむろに寸余まづ突き心太
皆が背を向けての話し夕端居