第59回原宿句会
平成6年8月19日

   
兼題 簗 月見草 立秋
席題 海月


            東 人
乗る波の形に膨るる海月かな
石組みに逃げ場もあらず涸れ簗場
星と星ぶつかる話月見草
秋立つや鍵穴深き輸入家具

            玄 髪
裾まくる素足にやさし簗の竹
立秋を過ぎて「熱パ」の首位攻防
炭鉱消えて名残惜しげや月見草


            白 美
立秋やペン先をとぐ紙やすり
簗番の山崩れたる跡に座し
青水月銅鑼鳴りわたる湾の口
灯台の灯りの遠く月見草

            希 覯 子
青竹の径を揃へて簗簀張る
鎌倉に海月警報出されけり
鉄路より低き家並や月見草
癌学者癌に斃れり今朝の秋

            法 弘
秋立つと封書で返す鍵一つ
海月浮く水半球の頂きに
簗にせんとて山積みの竹と縄
径いつか絶えゐて月見草の丘

            千 恵 子
鏡にも通ふ風あり今朝の秋
掬ひ上げし海月平たく掌に沈む
マジックで書かれし看板簗案内
月見草沖行く船の灯の白し

            武 甲
水尽きて簗の現はる川の宿
透けぬ白着るギャル逃げて海月来る
「知将」得てその名広めし月見草
秋立つや尼僧の院を風抜ける

            英 樹
立秋や落ち合うてゆく笹の舟
みづうみのほとり灯の入る月見草
秋立つや岬の果てに宿を取り
簗を打ち終へてオカリナ吹きにけり

            利 孟
群れたるも知らぬげに揺れ水海月
萎えし花くれなゐ残し月見草
狂ひ鳴る目覚し時計秋立ちぬ
欄干にもたれし子らや下り簗

            京 子
引き潮の浜にくらげの身をさらす
瀬も浅き少雨の川に簗かける
金網に虫の弱りて今朝の秋
蕋に来る蜂重たげに月見草

            梅 艸
決すこと二つ三つあり今朝の秋
くるぶしに虹まとはせて簗打てり
つくばひのボーフラ去って月見草
立秋や空き缶累と積まれをり

            萩 宏
秋立つも袖たくし上げ外回り
ふとももの赤い斑点海月あと
月見草きみのやうだと口説かれて
陽がのぼり光る川面に潜む魚簗