第68回原宿句会
平成7年4月21日

   
兼題 夏立つ 緑の日 桜鯛
席題 新緑


            東 人
背鰭なほ人刺す気配桜鯛
風と日を祀る別宮若緑
初夏や文字金泥の孔子廟
切り替へしつつ下りるバス緑の日

            希 覯 子
浜離宮三百歳の若緑
御苑いま鴉天国緑の日
 鞆の浦
錨鋳る万葉の浦桜鯛
初夏や双生児乗すベビーカー

            梅 艸
群馬発農事通信夏来る
沖縄デーいつしか死語に緑の日
はつなつや稜角濃くしてビル立てり
トロ箱のとりわけ律儀に桜鯛

            千 恵 子
目の底に藍にじませて桜鯛
スニーカーの紐三色に緑の日
逆立ちの眼にさらさらと夏来る
若緑仁王の胴に走る裂

            美 子
二の腕の今年の太さ夏に入る
俎に余る貫禄桜鯛
若緑雀転げて遊ぶなり
亡き人の句を口遊む緑の日

            白 美
初夏や衿より銀のネックレス
緑の日背もたれ長き布の椅子
若緑辞書に残りし折のあと
桜鯛尾鰭を上げて大絵皿

            法 弘
いつとなく拡がる歩幅パリの初夏
舌を噛む出家の名前若緑
おにぎりを割れば梅干みどりの日
桜鯛女ざかりのまざまざと

            義 紀
桜鯛届きて店の華やげる
初夏の街行く処女らの長き脛
緑立つ新入社員ら右往左往
コンクリートの箱に棲みみどりの日

            博  道
緑たつ山道そひの雨やどり
籐が来て素足冷され夏初め
緑の日迎へる子等に力みなく
さくら鯛あはれおのれの味知らず

            利 孟
積み上げて乾きし手桶夏来たる
花鯛の腹の光りに寄せる手網
針の蝦なかば吐き出し桜鯛
Tシャツのシートカバーや緑の日

            京 子
緑の日よろけて転ばぬ一輪車
頭で逃れ尾にて板打つ花見鯛
浜風に身をなぶらせて緑立つ
初夏の空広くなる高架線

            萩 宏
子らを乗せオール漕ぐ背に初夏の風
濁声で今日のお薦め桜鯛
緑の日連休初日と覚えけり
廃校の校門裏にも若緑

            伸  作
歩み止めし原爆ドーム夏来る
昇格や桶に入れたる桜鯛
若緑スカートが舞ふ並木道
サリンガス昭和なつかし緑の日

            武 甲
夏来る単車を飛ばすツーリング
緑の日「昭和」の二文字に思ひ馳す
桜鯛おろす新婦に笑み満てり

            朱 美
若緑弾く子供の声に笑む