第76回原宿句会
平成7年12月5日 平成7年詠み納め句会

   
兼題 灰色のロシア 青のアメリカ
   赤の北海道 黄色の東京都
   紫の茨城県

          

            東 人
銀鼠の寒月光やバイカル湖
むらさきの峰より筑波颪かな
赤門へ並ぶ立看銀杏散る
流氷に赤き陽の落つ能取かな
蕎麦喰うて冬青空の摩天楼

            利 孟
銀鼠のコザック帽や大地凍つ
「数寄屋橋ここにありき」と石蕗の花
ドル紙幣に漉かる青糸竜馬の忌
味付けはせうゆと頼み鮟鱇鍋
厚岸や大蠣を焼く磯焚火

            白 美
葉牡丹の芯の紫鹿島灘
凍港を守る紋別の赤灯台
凍雲や香月泰男の画布埋む
ジージャンの短き裾に羅府の風
日暮里の坂で山吹帰り咲く

            希 覯 子
難讀の蝦夷の地名や七かまど
黄落や鳥糞浴びしロダン像
竜の玉日本外史を編みし庵
青年期敵は米英開戦忌
シベリアは灰色の空雪眼鏡

            法 弘
冬晴や海より入る紐育
二風谷は風の哭く谷ななかまど
黄水仙恋の銀座で買ひにけり
銀鼠の襟巻岡田嘉子かな
むらさきに皸裂けて筑波の子

            義 紀
ウォッカ飲む暖炉の灰を掻きながら
沢庵漬洗ふ銀座の女将かな
冬晴や運河に映る赤煉瓦
紫苑咲く茨城県庁官舎裏
摩天楼越しの青空スケート場

            美 子
インディアン水車に鮭の腹赤し
冬青空女神の燭が突刺さる
病める子ら泣かず原子炉立つ凍土
イチョウ落葉カントを学ぶ僧のあり
西山荘紫紺に暁て蒟蒻掘る

            千 恵 子
ナイアガラ青引き緊めて冬の風
丹頂の来て湿原の華やげり
グレー淡き瞳に冬帽子ソルジェニツィン
寒気来て筑波嶺紫染みにけり
電飾の東京タワー師走入り

            京 子
秋天の青吸ふ河や大峡谷
「巨峰」もぐ牛久の里の昼さがり
灰色の眼光れり大イコン
通り過ぐ廃鉱駅のななかまど
黄金波小江戸に残る米どころ

            萩 宏
紫のジャージのラガー遠筑波
人参を喰らひ国後蹴つとばす
曇天にユーラシアかな山眠る
イエローのカヌーを漕ぎし多摩の冬
ロッキーの青き湖畔に鷲が舞ふ

            翁 莞
笹葉舟紫紺のかぶり漕ぐ乙女
摩天楼下飛ぶヘリや冬青空
灰色の旅の春泥チェーホフ忌
浅草の笛の黄色音師走かな
網走の原生花園冬夕焼