第75回原宿句会
平成7年11月15日

   
兼題 石蕗の花 海鼠 冬隣
席題 当季雑詠二句


            東 人
海鼠喰ふ蘊蓄深き貌をして
神の留守白紙で戻すアンケート
茜さす陽に満開の石蕗の花
楢の根の榾火を埋め冬隣
風に飛びやすき葉漏れ日白障子

            法 弘
沖晴れて徐福の墓の石蕗は黄に
水槽になまこ飼はれて裏がへる
地球儀をゴミと出す日や冬隣
夜食たのしパジャマの柄に白き象
街風にときに棘あり冬隣

            千 恵 子
漱石の脳味噌しろじろ冬薔薇
石段のじゃんけん遊び石蕗光る
海鼠喰ふ宿に動かぬ時計かな
腸を抜かれて海鼠干されをり
針山に待ち針いろいろ冬隣

            義 紀
石蕗咲くや良き同僚で良き父で
つるかめ算解けぬ吾子なり冬隣
噛み合せ悪しき入れ歯や寒海鼠
頬赤き兄と弟冬隣
黒白のつかぬ世なりき干菜汁
石蕗をコップに活ける宿の朝

            美 子
寒海鼠噛み逡巡する思ひ
冬隣畳鰯の目が光る
白蓮の芝居見に行く年の暮
冬隣外来受付より入る
白張を下げたる門に石蕗の花

            白 美
指先に残る白墨冬日向
掌で量る封書の重さ石蕗の花
たなぞこの力を緩め海鼠揉む
窓越しにブリキの玩具冬隣
風強き岬の岩に石蕗の花

            利 孟
風に鳴る鎖の樋や石蕗の花
盗み喰ひして酢の味の海鼠なり
冬隣なべて瓦の映画村
薬草と煮て陽と海の香の海鼠
冬隣り忍者の顔の化粧焼け

            希 覯 子
赤札の衣料吊され冬近し
朝寒や糊の白衣に手を通す
花石蕗ややりくり長屋八十年
海鼠腸の器ぐい呑み似なりけり
身構へしビルの出口に冬近し
海鼠選る一ぱい二はいと声かけて

            萩 宏
故郷を離れ海鼠の味遠し
獲物追ふ鷹の眼光白き襟
機関車の白き煙や冬近し