第89回原宿句会
平成9年1月8日

   
   平成九年新年句会
兼題 双六 ひめ始め 太箸
席題 寒波


            東 人
海上に星を押しやり寒波来る
人妻は関で止められ絵双六
水引の龜の箸置祝ひ箸
あやふやな首尾こそ良けれ姫始め
小刻みに息を整へ糶始め

            利 孟
獅子舞のそこに無き尾を噛むしぐさ
たてがみに編み込むリボンひめ始め
社長にて上りの出世絵双六
子供箸添へて名入りの祝箸
大寒波黒き海原押し渡り

            笙
嫁ぐ娘の名を黒々と祝ひ箸
賽任せ旅はかどらぬ絵双六
朝靄を吹き払ひゆく飛馬始め
身をよぢる枝に降りしく紅葉かな
箸紙に初児の名前大々と

            法 弘
寒波来る沖に座礁のロシア船
太古より手順は同じ姫始
伊豆沖のオロシヤの船や絵双六
太箸の少しゆがんであるも佳し
七種やあるかなきかの塩加減

            希 覯 子
金屏風知事公館の名刺受
祝箸天地のけぢめなかりけり
姫始め南十字の星の下
双六や骨賽の目の墨うすれ
身丈だけ濁す鯉あり寒波来る

            美 子
手長神足長神の姫はじめ
夜の桶に家族の数の祝箸
注連飾るアキレス腱のしなやかに
女礼者パスタセットを下げ来たる
双六をせがむ子に負け中終ひ

            千 恵 子
寒波来る宿の朝市賑はひて
新内の引きずる闇や姫始め
頭も先も同じ太さや祝箸
双六や廃れゆく世をいかにせん
手水舎の龍吐の髭に初神籖

            梅 艸
太箸の我が名のちやんが消えた年
我が背なの時の軽さや姫始
双六や家族合はせか母の断
卓袱台の六十度ごとの祝箸
新歌舞伎座北突き当たりの姫始

            義 紀
幾度目の別れ話や姫始
パソコンに電源を入れ事務始め
寒波来る街の外れの小さき家
双六の行きつ戻りつ我に似て
太箸や少し傾ぎし子の名前

            白 美
新しき香水をふり姫はじめ
一吹きの息骰に籠め絵双六
太箸の置かれて家族恙無し
太箸の紋章伏見の抱稲穂


            武 甲
手鏡の紅さす顔や姫始
太箸や居留守をつかふ迎へ酒
酔ひ覚めの首をすくめる寒波かな
ヨーロッパまたもや来たる大寒波
甲高き母の小言や初電話
双六や負けてむづかる赤ら顔

            健 一
甘酒の湯気ごと飲みて初詣
賽の目に走る目線の絵双六
海鳴りのたちまち高き寒波かな
みどり子の大箸包み四駆の絵
耳元にささやく声の姫始

            正
青春や真昼下りの姫始め
新らしき太箸増えし家となり
上がる馬鹿上がらぬも馬鹿絵双六
寒波来て天気図俄に忙がしく
初日待つテレビカメラと並びをり

            萩 宏
寒波待つ土中の種子の元気かな
願かけす親子を染めし初日の出
客が去り祝箸から片付けり
双六の箱破れしを補強せり