第98回原宿句会
平成9年9月1日 赤坂アビタシオンビル

   
  兼題 踊り 穂波 夢二忌
  席題 梨


     東人
灯の入りて踊りの頭尾つながれり
ありの実や母のすさびの手風琴
二子を得しことは正夢夢二の忌
県道をこえて穂波の続きけり
夢二忌や風の行方を誰も知らず

     利孟
歪つなる梨を袋に無人店
夢二忌や星の瞳の塗り絵の子
掘る担ぐ退るで入る踊りの輪
蜩や電話で埋まる指揮本部
農協の隅に稲穂の実る樽

     白美
外の輪は一手遅れて盆踊り
稲の香を纏ひて役所勤めかな
唄終る頃に輪になる盆踊り
八つ切りにして皿に盛る二十世紀
夢二の忌袖に残れる涙あと

     笙 
ごつごつと無骨にまろき長十郎
花の色底からねぢれ夢二の忌
満々とふくれて枡の新走り
ためらひてひと手遅れの盆踊り
手送りに風を運んで稲穂波

     千恵子
輪の中に上手が一人盆踊り
前ぶれもなく来て今朝の風は秋
折れさうな腰に繻子帯夢二の忌
平野とはまことに平稲は穂に
梨むけば汁のしたたるナイフかな

     箏円
三の糸切れて聴き入る虫の声
風を着て踊り狂ふや秋桜
夢二忌や糸雨黒猫傘の婦人
無言なる大地に稲穂のざはめきて
盛物の梨の実喜ぶ義母の顔

     美子
転々と生きて稲穂の中にあり
下り梁組む老練の肌光る
夢二忌の草履の鼻緒緩やかに
新しき脂の粒立ち松手入れ
盆踊り外股で来る婦人連

     希覯子
勅使来ぬ門となりけり晝の虫
スタンドに徳用燐寸夢二の忌
観光の名残の穂波巾着田
一本の帯とし梨の皮を剥く
東京に根付きし阿波の踊りかな

     義紀
黒猫が迷ひ込みたる夢二の忌
指先に艶現る盆の踊りかな
鉄橋を電車過ぎ行く流燈会
惣領の嫁取り決まる稲の秋
梨食ふや昨日酒場でありしこと

     武甲
落日に背を丸めたる稲穂かな
夢二忌や子の声戻る通学路
新涼や「あさま」の券を求む列
梨狩や客寄せ競ふ直売所
煩悩を捨てて撥持つ盆踊り

     龍堂
用水に流し浮き来る梨礫
夢二忌の閃光しぶく伊香保かな
地を這ひて男踊りの開く道
墾田碑を稲穂仰ぎて風渡る
守人の居らむや出水の晒し堂

     健次
碓氷にはカメラが並ぶ九年秋
棚下に積みたる梨やほぞをかみ
山合ひに仲間少なき稲穂揺れ
夢二忌やあさま車中の白日夢
踊り手を運び続けしアプト式

     健一
美人画の目元に憂ひ夢二の忌
葉隠れの有りの実選ぶ友の声
大きめな踊りの仕草大拍手
弓なりの稲穂の影にそよぐ風
渡し舟積みし稲穂の影揺らし

     萩宏
夢二忌やペディキュアの脚見とれをり
先祖より町おこしかな盆踊
挨拶状届きし土地より梨の箱
定年を迎へる年の稲穂かな
ダイアナの悲報で閉ぢし夏休み

     正 
日の暮れて待ち人の来ぬ夢二の忌
実る恋やがては終る稲の秋
ヴィオロンやザルツブルグの良夜かな
幕間に美姫にまた逢ふ秋の宵
故郷は遠くにありて盆踊