第4回 平成8年8月23日
文化センター


森利孟
闇に消えしはずの螢火また点る
闇横切り間に入る影虫時雨
噴煙の高さに昇り燕去る
晩夏光息かけ飛ばす靴の砂

会田比呂
風鈴の舌切りて喪に入りにけり
溝蕎麦に塞がれてゐる隠里
十枚の葉つぱで買ひし鬼やんま
新涼や音の澄みゆく石切場

池田孝明
蜘蛛の囲に絡みて喘ぐ蜻蛉かな
蛍狩り今は団地の憩ひの場
川沿ひに滑るが如く鬼やんま
涼風や釣り師の影も崩れをり

石島巧
昔日のとんぼ追ひしか造成地
涼風に知らぬ同志の一会釈
友連れてとんぼ追ひしも夢の中
無邪気なる童を躱す鬼やんま

伊藤均
仄暗き羽黒蜻蛉の水面かな
新涼の冷やりと背中那須山頂
新涼や山頂の岩黒光り
那須岳に涌きいづるかな秋茜

岩本充弘
冬支度明治の母の鯨尺
蛇籠張る川に群れ飛ぶ赤蜻蛉
オカリナの音色の流れ秋涼し
着せ替への人形赤く夕紅葉

小又美恵子
石割れの隙より白き草の花
虫の声暗より響き足を止む
さざ波の映る沢辺の糸蜻蛉
散歩する黎明の道涼新た

片山栄喜
降るほどの星をめぐらせ富士登山
蜻蛉住む国はいづくぞ夢の里
里帰り子の捕る蜻蛉鬼やんま
虫の声深夜を分かつ響きかな

茅島正男
炎昼下花一輸のよしず影
炭火焼終へて新涼舌づつみ
鎌入れし歩み速める夏小道
朝とんぼ濡れ布団かけねぼけ羽根

小林美智子
新涼や胸まで上げる掛布団
裏庭に一斉に咲く鳳仙花
晴天に蜻蛉追ふ網空を切る
鬼灯を取る手も赤く茜雲

高島文江
なかなかに来ぬバス蟻の列ゆけり
赤とんぼ自転車すいと踏んでゆく
朝刊のインクのにほひ秋涼し
酢を切つて飯のかがやく涼新た

田中功一
新涼や丹精込めしトマト穫る
赤蜻蛉背を地に着けて輪を描き
鬼やんまホバーリングで餌を待ち
新涼や子等の宿題進みけり

田仲晶
法の庭大師の像と喜雨分かつ
焼魚泳げる様や青かぼす
憩ひても力抜かざるとんぼの尾
新涼や森の香残る木の駅舎

手塚一郎
群れをなす蜻蛉の流れきれをらず
鬼やんま庁舎警備の空に舞ふ
さらさらと流れとまらぬ蜻蛉かな
無縁塔羽休めをり赤蜻蛉

床井憲巳
せがまれて小川またいでとんぼ取る
赤とんぼ羽段々に休みをり
秋涼や男の磨くリール竿
秋涼や酒を静かに飲まんかな

永松邦文
背の丸き巡査の帽の秋茜
新涼や北を目指して飛行機雲
新涼や日和を選び作務衣干す
教室を偵察に来た鬼やんま

福田匡志
新涼や愁ひ慰む湯のかほり
鳳仙花陽をゆらしては爆ぜにけり
夕日さす無縁仏や秋茜
秋茜つるみとどろく濤の上

堀江良人
群れて飛ぶ蜻蛉留める休耕田
鬼やんま往つては返へる切通し
自百合の姿垣間見古土塀
新涼の川面の風も川下ヘ

三澤郁子
梢吹く風の音かも夜の秋
新涼や朱色の袱紗草木染
湖にみちし晩夏の光りかな
石噛んでゐるよなあぎと鬼やんま

村上和郎
朝起きて朝顔の花数へけり
草刈りの老夫の背中に蜻蛉かな
球場に湧く喚声や夾竹桃
墓参り野辺に一輪竜胆花

山田秀夫
新涼や額の汗を奪ひとる
身構へる子の手すりぬけ鬼やんま
竿の先ゆれてとまれぬ赤蜻蛉
山里や暮れて帰らぬ赤蜻蛉









★森宗匠、警察大学校教務部長としての
ご栄転を前にしての句会でした。






第4回句会 文化センター
平成8年8月23日