第13回 平成9年6月27日
文化センター


森利孟
行水の拭ひもせずに巻くタオル
大ジョツキ女に出来ぬ力瘤
誘ひ水して汲む水に西瓜冷ゆ
銀幕の人の名の酒夏の夜

会田比呂
背中まで跳ねあげ梅雨の人となる
あやす声外に出て低し夏の夜
取り巻ける声得て割れし水瓜かな
鮎の川木陰の石の指南役

岩本充弘
夏の夜の子供神楽の剣の舞
夏祭り山車引く子らの濃き化粧
図書館で読む「罪と罰」梅雨籠
一生を何守り来し西瓜割る

小又美恵子
留守電話微かに風鈴入りし夜
美白クリーム繰り返し塗る夏の夜半
盆の上にざくりと切る大西瓜
浅酌や舌にピリリと夏大根

片山栄機
頭の程の西瓜抱きて子の歩む
まはり道して海へ出る夏台風
忙中の閑あり十年経し梅酒
夏の夜の星座に鳥の被り来る

川村清二
夏の月湯舟に浮かべ旅の宿
孫来たり一人舞台の夏の夜
店頭で転げ落ちたる西瓜かな
妻連れて紫陽花坂の茶店かな

小林美智子
前かけを染めて西瓜にかぶりつく
夕立のあがりて肩ふくツーリング
笑ひ声のせた風入る夏の夜


後藤信寛
夏の夜や光に飛び交ふ虫の群
ぬかるみの庭に落ちたる沙羅の花
子が母に朝から西瓜連呼する


田中鴻
店先に積まれし西瓜品定め
ベランダに男冥利の夏の夜
家中で中の色当て西瓜割る
夏の夜驟雨待ち待ち飲むビール

田仲晶
蕗広葉張り根の抱く山の土
灯を消してより池匂ふ夏の夜
西瓜割叩き損じに拍手来る
虹立てり伏水流の躍り出づ

高島文江
つめたくて甘くて西瓜滴れる
さくらんぼ好きで六月生まれなり
たたかれて西瓜ひとつの売られけり
温泉の町の下駄音高き夏の夜

永松邦文
昼下がり木影に憩ふ西瓜売り
夏の夜のバンドネオンの老楽士
紅の指塩つまみをり熟れ西瓜
夏の夜や盛り塩崩るる上燗屋

福田一構
風の来て沙羅の花落つ苔の上
行く先を風に託して夏の蝶
夏の夜や一日終へし万歩計
ひと跳ねてよどみに消えし梅実かな

堀江良人
梅雨冷えや並木を過ぎる湿り風
冷やされて香をなほ放つ西瓜かな
夏の夜や詫び言添へる挨拶状
夏の夜や障子の桟の手垢染み

三澤郁子
黒竹の葉ずれさやかに夜半の夏
西瓜掬ふ磐梯山の見ゆ食堂車
水桶に西瓜はなてば散るひかり
川に映る灯影の消えし夜半の夏