第35回 平成11年4月23日
アーバンしもつけ



森利孟
コードレス電話点滅春炬燵
船の行くあたりが釜山青き踏む



田仲晶
紅うすき踊り子草の踊られず
傘ごとの音を違へて蝌蚪覗く
名園の消えては生まる青水輪


池田孝明
葉牡丹を持ちて病室空くを待つ
うたた寝の頬あと残る春炬燵
花に血の色のかよひて老桜
初夏のかもめ群れ追ふ遊覧船

岩本充弘
神の峰出羽三山の青き踏む
てのひらの煙草の火種春炬燵
春炬燵ゆつくり動く手話の指
耕転機泥の轍をくねくねと

片山栄機
谷間の畑に独り青き踏む
じゆうたんのごとく石垣花吹雪
メンタムのにほへる床屋春火鉢
とろとろと煮る芋の鍋春炬燵

川村清二
物置に入れてまた出し春炬燵
花くづの道一面を埋めつくす
お花見で串に寄り添ふ団子三つ


佐藤美恵子
春炬燵背にして眠し膝枕
踏青や一山売りの菜の甘さ
菜を刻む手の止まりたる春の雪
陽だまりの鉢のパンジーあふれ咲く

田中鴻
故郷の丘に登りて青き踏む
陽が落ちて俄に作る春炬燵
踏青や素足で遊ぶ園児達
指をさす指よりそれて初燕

とこゐ憲巳
春炬燵替へ時痛む枕腕
徐に横になりたし春炬燵
桜散る跡切れを待ちて杯岬る
男衆の揚げる天ぷら春炬燵

永松邦文
たんぽぽの花びら入れて卵焼く
菜の花のちりこばれたる電車路
黒土に二列縦隊葱坊主
筍を煮る我妻の上機嫌

仁平貢一
万葉の三毳の山の青き踏む
鉈疵のめくれしままに辛夷咲く
青き踏む恋の迷ひの路二つ
乏しさに慣れし一人の春姫撻

福田一構
厨から妻の鼻うた春炬燵
トランプの占ひ吉と春炬燵
雨戸繰る陽のはじけ入る万愚節
蜥蜴出づ敷石あたり妻示す

へんみともこ
屑籠に屑が的中春炬燵
くねくねと青きを踏みて車椅子
熟睡の闇に轟く春の雷
囀りや名木めぐりの市民バス

堀江良人
山寺を覆ひ隠して山笑ふ
風の呼ぶ雲低く垂れ春炬燵
踏青や午餐に流行の串団子
春山や耳に届かぬ風の音

三澤郁子
小雪舞ふ一日こもれる春炬燵
風立ちて湖岸の桜吹雪かな
青き踏む丘のつづきや美術館
啼く牛も首振る牛も牧ひらく