第37回 平成11年6月25日
アーバンしもつけ



森利孟
卓揺すり唄ふ漢らビアホール
格子戸の老舗の灯り蚊喰鳥
切り分ける西瓜の薄くまとふ露


田仲晶
蓮浮葉百枚百の雨の音
電飾の一つ灯らずビヤホール
人の世を逆しまに見て蚊喰鳥
来し方はすでに忘却なめくじり

会田比呂
まくなぎや朱文字のままに骨納む
熟れ甘き水の匂ひの西瓜かな
大声の内緒の話ビヤホ‐ル
かはほりや夕焼線となりて消ゆ

池田孝明
西瓜割り少年剣士行き惑ふ
友ありて西瓜も小さく刻まれる
雨空に煙草のこもるビヤホール
雲の峰下校の児等の走りゆく

岩本充弘
黒板の文字そのままに大西日
廃屋の戸の釘付けに蚊喰鳥
清流に冷す西瓜や鎌を研ぐ
ビヤホール筑波山麓嶺近し

片山栄機
夏座敷落語会場人混みて
蝙蝠の棲む駅舎より旅立ちぬ
熟れ西瓜切りたる音の青さかな
鼻の汗ぬぐひて集ふビヤホール

川村清二
太陽を山に沈めてビヤホール
夕顔を削り干したる白暖簾
コンコンと叩かれながら西瓜かな


田中鴻
まづ川に西瓜を沈め釣り始む
子供らの投げる石追ひ蚊喰鳥
お互ひの還暦祝ひ生ビール
色違ふ地ビール集めて品定め

とこゐ憲巳
泡の跡段々につけビヤジョツキ
焼鳥の匂ひのこもるビヤホール
荒塩に色と香の効く西瓜かな
蝙蝠に子らは長靴投げ上げて

永松邦文
束ね百合カサブランカといふ香り
風少し優しくなりし古団扇
化粧濃き一団来たるビヤホール
筆太に捨て値書かれし西瓜かな

仁平貢一
一湾の夕日集めてビヤホール
神の森太古の湖や蚊喰鳥
過去帳を閉ぢたる尼僧西瓜切る
旅装解き潮の匂ひのビヤホール

福田一構
蝙蝠やと汁の菜きざむ手暗がり
あれこれと防具の談義ビール酌む
稽古終へ胡坐であおぐビールかな
黄昏て雨情旧居の蚊喰鳥

へんみともこ
下校子の背丈競べて立葵
輪になって幼児教室梅雨晴間
助手席の膝に抱へて大西瓜
消灯に寝入る病棟蚊喰鳥

堀江良人
登校の吾子の眩しき衣更
門扉閉ず音に誘はれ蚊喰鳥
県庁へくぐるマロニエ青葉闇
裏山の鉄塔かくし梅雨の雲

三澤郁子
湖心より還るヨツトの帆に夕日
絵手紙の西瓜ごろりと卓の上
屋上の西日の著きビヤホール
蝙蝠の射程距離かな跨路橋