第40回 平成11年9月24日
アーバンしもつけ



岩本充弘
木曽渓の空三角に秋の声
影法師無理に連れ去る秋の暮れ
長き夜妻は手紙を書き留めて
菊人形の吹きじ横笛かと思ひ

片山栄機
秋茄子にこぼるる紺の滴かな
かけ登る小径を埋めて秋桜
長き夜ラジオ電波の声やさし
読み返す恩師の手紙菊香る

川村清二
秋天へ赤子抱き上げ泣き相撲
十五夜に軒下巡り藁を打つ
釣り人の竿に逆らひをとり鮎
こほろぎがうるさくもあり夜もすがら

佐藤美恵子
平床の唐の器の菊一輪
乳搾る音闇に染む夜長かな
天高し背の寝息聞き襁褓干す
三連の団子供へて月見かな

田中鴻
揚げたての菊を肴としたる酒
しばらくの友と酒酌む夜長かな
ホームにも野菊の咲ける田舎訳
好きな本読了できた夜長かな

とこゐ憲巳
秋深し母の日記の走り書き
秋隣り呑口黒ずむ母茶碗
涙する昭和歌謡の長き夜
女盛り話夢中の菊花展

永松邦文
菊月の茶臼岳の煙厚く立ち
風来る師団跡地の野紺菊
乱菊に台座埋もれし征馬の碑
海鳴りや苦吟の果の菊の酒

仁平貢一
旧道の会津曲家蕎麦の花
二分咲きの菊人形の幼な顔
水澄めり岩鼻下の蝦蟇渕
産声に寒村揺れる夜長かな

福田一構
仲人の気負ひて立てる菊日和
てんでんの杖立てかけし敬老会
耳に掌を添へて語らふ敬老会
聞くふりの母のくり言長き夜

へんみともこ
長き夜話し言葉で綴る文
菊盛り村を三分の用水路
ホールから琴の調べや菊花展
秋の昼垣つつ抜けて御鈴の音

堀江良人
夕日浴び更に色増し彼岸花
あさまだき菊其の香を留めをリ
群れ離れ飛び火のごとく彼岸花
長き夜の雨音いつか遠ざかる

三澤郁子
菊花展二荒神社の太柱
ガス灯の点りてよりの夜長かな
菊の香のうつりてゐたり桶の水
通ひ路にシャンソン流る夜長かな