第53回 平成12年10月20日
アーバンしもつけ


岩本充弘
夜鳥の和毛の残り貝割菜
大阿蘇の馬柵白々と閉ざさるる
荒海や世阿弥が舞ひし佐渡の秋
回廊を女の歩幅紅葉渓

片山栄機
押花の金木犀香に重石して
朝寒や残り僅かな日記帳
間引菜や農事いそしむ四十八
団子喰ふ児童の群れや牧閉ざす

川村清二
山葡萄壁なすごときけもの道
菜を間引く畑にラヂオの音ばかり
トラツクに牛の乗せられ牧閉ざす
那須岳へ脚を延ばして秋深し

佐藤美恵子
牧閉ざす母通院を託ちをり
牧閉ざす出来を自慢の露天風呂
ペダルこぐ脈あがらせる芋焼談
大皿の摘まみ菜かこむ四世代

田中鴻
太りたる牛を車に牧閉ざす
休日の家庭菜園菜を間引く
牧童の牛馬追ひたて牧閉ざす
摘まみ菜を両手いつぱい妻笑ふ

とこゐ憲巳
皆の声揃ひし笑ひ村芝居
月代や杯籠盛ん屋形船
天ぷらの雑魚に添へたる虚抜菜
はららごの透けたる影や夜の酒

栃木昭雄
間引菜や駈け出す軍鶏の目のきつく
有終の美といふ言葉百舌猛る
那須岳の月の光や牧閉ざす
放牧の那須駒戻り牧閉ざす

永松邦文
絵手紙の鯖の空色天高し
のら猫のあくびしてゐる秋の空
秋冷や針の動かぬ銀時計
腰弓なりに伸ばしてはまた虚抜菜

仁平貢一
間引菜や午後の陽傾ぐ開拓地
単線の浜の駅舎の抜き菜売り
牧閉ぢて国境の町遠くなる
吊り橋の蔦幾重にも秋の暮れ

福田一構
紅葉山隔てて黒き杉並木
銀杏を拾ふ女の影ながし
旅支度終へて一服天高し
エアポート降り込められてそぞろ寒

へんみともこ
間引菜の置かれて留守の勝手口
山くだる風は空つぽ牧閉ざす
やはらかな雲のひろがり牧閉ざす
残す菜に土を散らして間引きけり

堀江良人
銭湯の湯桶の響き後の月
木もれ日の増して並木の秋深し
牧閉づ日那須の噴煙たなびかず
ひつじ田の葉面を揺らし鳥立ちぬ

三澤郁子
秋薊露天の湯への段濡れて
無住寺に立哨のごと曼珠沙華
崩えたるサイロ埋めて草もみぢ
間引菜のみどりこぼるる目籠かな