第113回 平成18年月3月5日
   比呂
★ 寄せ墓に弘化慶応いぬふぐり
◎ 打ち寄せて杭に凍れる湖の泡
◎ 薄墨に書きたる弔辞花馬酔木
・ 春宵やガレのランプの薄明かり
・ 桜湯や鷹の蒔絵の喰ひ初め椀

   昭雄
★ 誰待つで無く春宵の門灯す
◎ 今閉ぢし辞書また開く春の宵
・ 荒行の古刹の厨桜漬け
・ 春の宵音立て止まる水車かな
  白湯を注ぐ白磁の青さ桜漬

   ともこ
★ 洋館の木枠の出窓芝青む
◎ 鳥雲に缶を巻空けコンビーフ
・ 春宵やポケットに鳴る鍵の鈴
・ 手をつなぐ子のスキップよ春闌ける
  桜湯や話のはづむ控室
   幸子
◎ 桜湯を飲みて門出の朝早し
◎ 桜漬け白湯に咲かせて祝膳
・ 月の丸さ語りて歩む春の宵
・ 剪定に若返りたる果樹の園
  春寒し原野の上の飛行雲

   清子
・ 春月に行き着きさうなエレベータ
・ 落ち着かぬ夫に桜茶娘嫁す
・ 春の宵車夫にチップを二ドルほど
・ 漆の香椀にかすかに蜆汁
・ 出船かな春潮立てる沖の闇

   敬子
・ お品書読む春宵の屋形船
・ 長閑しや鯉見せに行く乳母車
・ 蔵座敷家の宝の享保雛
  立居振舞善かれ宗家の桜漬
  靄かかり山動くかに春兆す
   永子
◎ 履き慣れぬ鼻緒の固さ雛の客
◎ 風騒ぐ鎮守の杜の巣立鳥
  掻き鳴らす音に膨らむ花の幕
  家並み尽き家路急かるる春の宵
  持て成しのさくら湯ほのか旅の宿

   一構
・ 流星を仰ぎて数へ野天の湯
・ 隣家の琴聴く日和春きざす
  男体山の笑ふ朝や妻の古希
  嚔して犬と三歩の一歩かな
  春の宵背筋伸ばして洒落ごころ

   芳子
・ 折紙の雛の置かるる出窓かな
・ 湯に踊り紅色のます塩桜
  子の荷物ひねもす作り春の宵
  車椅子押す短パンの子春日向
  葺き味噌や母の自慢の隠し味
   聖子
・ 卒論の迫る締め切り着所寝
  梅咲いて一枝一枝のひかりかな
  古伊万里や塩気の効いた桜漬け
  春宵や爆音立てて吾子帰る
  仕草まで緩りとなりし桜の湯

   良人
・ 紅白に塗らる鉄塔春の雨
  句繕ふ筆の進まぬ春の宵
  椀底に浮かせて余す桜漬け
  時の間を空ながめ居り春の宵
  桜漬けせはしき客の椀の数

   利孟
  雪霏霏として湯の客の身じろがず
  塩漬けにしたる花の香桜漬
  読み止しの本積む椅子や春の雨
  お話の続きはあした雪しまき
  春宵のキスチョコ色をない交ぜに