第132回 平成19年10月21日
   昭雄
★ 秋澄むや切れ味のよき肥後守
◎ 駐在の手帳に水位秋出水
・ 無花果や餓鬼大将が恋心
・ 秋の暮母の形見の鯨尺
・ 秋の暮蔵の扉の軋む音

   ともこ
★ 錆流る売地看板泡立ち草
◎ 石突にほのと森の香茸とる
・ 傍らに切抜きレシピ秋の暮
・ 貝割菜生れし畑の土つけて
  食べ頃の無花果どれも嘴の疵

   比呂
★ 吹きこぼる小鍋の饂飩秋夕べ
・ 雲がちの空に小出しの十三夜
・ 無花果や葉陰に黙の実を結ぶ
・ 無花果の嘯くさまに熟れにけり
  初鵙や訝るごとく鳴き響む
   一構
・ 魚河岸のなべて長靴秋の朝
・ 秋の暮小屋に湯槽のドラム缶
・ 山気満つ鹿の遠音は闇に乗る
  禁煙の吾子不惑なり温め酒
  妖婉に秋海棠の川辺かな

  
・ 日溜りの水に集ひし鯉の群
・ コスモスの花に埋もれる休耕地
  無花果の実を食べつくし小鳥去る
  秋空にくっきり映える那須の山
  山路来てひときわ淋し秋の暮

   清子
◎ 総立ちとなりし来賓運動会
・ 病得て六感鈍る秋の暮
・ 少女らのをとこ言葉や鵙高音
  母許のいつも大盛り栗おこわ
  はにかみて娘は無花果の汁たらす
   敬子
◎ 絵島泣き過しし庭や杜鵑草
・ 苔むせる無記の石塔薄紅葉
・ 地に触れんばかり湖畔の花梨熟る
・ 秋の暮香炉に火入る蔵座敷
  無花果のジャム煮上がりて母偲ぶ

   憲巳
・ 秋の暮「枯葉」の流る理髪店
・ 秋の暮「餃子の街」の旗揺れる
・ 待ち時間長き床屋や秋の暮
・ ハーレーの音を連ねて秋高し
  秋の暮文字の逆さの床屋かな

   永子
・ 秋空に「祝」の字映えて進水す
・ 杣人の名残の鋸や秋の暮
・ 流れつく海藻乾ぶ秋の浜
・ 寝そびれてラジオ聴き入る良夜かな
  無花果の甘み送ると電話口
   信子
◎ 無花果食む男体山を間向ふに
  をちこちの朝の花火や体育の日
  列なして自転車並ぶ秋の暮
  無花果食む遠い記憶に生るる家
  歩道橋渡り行く背へ秋の暮

   美代子
◎ 日差し押し上げて無花果もぎりけり
◎ かけはぎの小さき看板秋の暮
・ 木犀の風入れかはる日暮かな
・ 日の色に熟れ無花果の重さかな
  泣き相撲涙と鼻汁と一緒くた

   芳子
◎ 終電の闇の膨らむ無月かな
・ 弦月や片扉の失せし無住寺
  帰路急ぐ靴音過ぎる秋の暮
  那須岳や色無き風に人恋ふる
  密やかに熟るる無花果鳥止まる
   良人
・ 出羽富士の山裾延びる秋の暮
・ 月山の池塘澄み切る秋の暮
  街路樹の葉に揺らぎなし秋の暮
  葉腋を埋めるいちじくあからめる
  葉身に座していちじく色づけり

   利孟
  秋袷そろそろ癒ゆる五十肩
  鳩吹いて入る草叢の秘密基地
  干し肉を添へ無花果に風の味
  雁渡し雨戸ひそかに鳴らしては
  遠き灯の動かぬ車窓秋の暮