第153回 平成21年7月19日



   比呂
○とうすみやシテの絹擦れ立てて泣き
・妹の嬰児を抱きて帰省かな
・山百合の香の麓まで随いてきし
 框踏めば生家の匂ひ軒忍
・滴りやことさら濡るる磨崖佛

   昭雄
◎修験者の声滴りの堂に満つ
○梅雨晴れ間矮鶏朗々と鬨の声
○帰省子の凭れ柱の痕なでる
 崩るるは人にもありて白牡丹
 山小屋の鍵あける音滴れり

   敬子
◎虫取りか欠伸か蝦墓が口開く
○洞窟の十三仏や滴れり
・リハビリを待ちゐる窓の揚羽蝶
・河鹿笛蕎麦名物の隠れ里
・針音の混じるレコード帰省かな

   鴻
◎白鷺の青き田の面に吸ひ込まる
・帰省子の突然開けて勝手口
 振り返り振り返り見る木僅垣
・滴りの洞を灯して光り苔
・枝詰みし庭の樫の木夏嵐

   信子
・帰省して一番風呂の檜の香
・万緑や呟き覚え英単語
○梅雨明けの影濃き杉の古道かな
・梅雨明けや東京のビル空を裂き
・先頭の休憩合図滴れり

   登美子
・風の来て祭りの幣をよじりけり
 帰省子の足裏テレビの色おどる
○帰省子の祖父似の肩の広さかな
 滴りの岩場ひとすじ濡れつづく
・祭髪紅い手鏡取り出して

   良人
 流灯を放せば闇に光り行く
・峡谷の巌滴りて風起こす
 滴りを浴びて山草踊り居り
○黄道の一直線に黄菅原
 家々に白き花咲く帰省かな

   ともこ
・部屋に干す青きタオルや梅雨ごもり
・拭ひても曇る眼鏡や梅雨深し
・滴りの風に吹かれてちりぢりに
・見渡せるかぎり山並み帰省かな
・泥跳ねの葉裏に乾き青鬼灯

   ミヨ
 鎮れる一山削り梅雨出水
・銅山の町の火まばら河鹿笛
・食細き母の達者に帰省かな
 蓮閉ぢぬ日輪空へ置き去りに
・石垣に刻みし梵字滴れり

   清子
 昼過ぎのシャワーしきりに帰省の子
 中猫となりて守宮を落しけり
・海霧の間に蝦夷地の透ける竜飛崎
・幼き日と同じ香のして麦藁帽
 滴りの撫林道に杖の音

   憲
 渋滞やふるさと遠き帰省かな
 闊歩する水の滴る浴衣の娘
 炎天下汗の滴る球児かな
・家系図の我が名を探す帰省かな
 山中や滴る水に我忘れ