第173回 平成23年05月29日
兼題:風薫る 山椒魚


  利孟
 紫蘇を揉むどす黒きもの吐かせては
 ラバウル守備隊開衿シャツの父
 薫風や起居一畳の坐禅堂
 水揺らぐほどに揺る影山椒魚
 金を蒔くかに身震ひて麦の芒

  郁子
◎源流のここが県境若葉風
○本流も支流も秘境山椒魚
○健康は高き靴音風薫る
・柿の木の大樹戸毎に若葉光
・若葉風栃の海原行くごとし

  敬子
◎薫風や美女の操る海豚ショー
○開眼や寺に牡丹の点る
・街道の名残り宿場に花水木
・岩陰に眼光らせ山椒魚
 樟若葉牧水に湯に二人ゐて

  登美子
○水底に我は関せず山椒魚
○みどり児の手足のくびれ風薫る
・薫風野を分け高原列車来る
 山椒魚山雨沁みたる泥に生く
 薫風やどの山肌も濃きみどり

  昭雄
○牛飼ひの妻が茶店や風薫る
・薫風や娘に届く母子手帳
・山椒魚智恵子の空を訝しむ
・手庇の指呼の天心揚雲雀
・安達太良山の空に景雲山法師

  聖子
○山椒魚飼ひて峠の姥が茶屋
・田蛙の息継ぎもせで鳴き通す
・薫風や家囲む田の水鏡
・紫陽花や出先の会議の長引きて
 なかなかに抜けぬ訛や粽結ふ

  芳子
○余震なほ長湯と決めて菖蒲風呂
・制服の真白き衿や風薫る
・白南風や天を振り分けクレーン船
・水脈の闇の深さや山椒魚
 異国語のまじる会話や牡丹園

  ともこ
○戸袋の内の暗闇雀の子
・針槐雲の欠片の花散らす
・せせらぎや平家の里の山椒魚
 川の名は生れし山の名風薫る
 銀鼠色の葉に揺れ白牡丹

  鴻
○収り紛れなんと巨大にブロッコリー
・鉄線の花故障車を搦め取る
・清流や山椒魚のつひ散歩
 十薬の花こぞり咲く裏通り
 薫風に頬撫でられて昼寝かな

  一構
・薫風やシャッターを押す化粧爪
・風薫る少したれ目の秋田犬
・ジーパンの腿のすり切れ風薫る
・勅使門開いて朝の風薫る
 今朝もまた薄墨の天風薫る

  良人
・雲捌けて青む男体山風薫る
・風薫る展望台の固き椅子
・薫風や那須岳の頂輝けり
・風薫る平家の里の鎧武者
 山椒魚緊張ほぐす役持てり

  恵子
・シャツ脱ぎ纏ふ装束日光祭
・華奢な背に揺れる三編み風薫る
・山椒魚街を見下ろすビオトープ
・五月雨や雨だれ時を刻みゆく
 山椒魚てんでに落つる岩雫

  信子
・桜蘂産院門を閉ざすまま
・山椒魚家寄り添うて平家谷
・春の蝶胸の高さに通りけり
・白南風や遠き国見る竜馬像
 恐恐と反す箸先山椒魚

  比呂
・薫風や芭蕉全句をなぞり書き
・軽病みの薬山ほど罌粟坊主
・仮橋に並び新橋花あやめ
・澄みとおる深山湧水山椒魚
 函嶺の山道暗し走り梅雨

  於した
・山椒魚現れて動かす水の面
・山椒魚峡の渓流棲家とす
・両腕で漢かかへし山椒魚
 薫風やさても身の上話など
 幼子の水へ一歩の立夏かな

  健
・空移す田水を揺らし風薫る
・鬱々を吹き飛ばしたり風薫る
・風薫る日々の望みの少なくて
 グロテスクとも優雅とも山椒魚
 彼奴こそ山椒魚なり腹黒し

  美代
・滝音や仮橋沈め昨夜の雨
・薫風に揺れ風鎮に海の色
読経めく女滝の音に包まれて
隠沼の主のはんざき顔を出す
篠の子や人馬にやさし旧街道