第261回 平成30年10月21日
兼題: 七五三 霜月


  利孟  
 着陸を待ち旋回の秋の空  
 大海老と薬味の葱と走り蕎麦  
 柿熟るや番外札所を守る地蔵  
 秋蚕飼ふ竹の柱の蚕棚  
 狐狸が戸を敲く音かも夜なべなほ  

  ミヨ  
☆穴まどひ地震に百穴墳くづれ  
☆秋天や塩桶転げ牧の窪  
☆滝行の声高らかに冬隣  
☆麺板の音の展げる走り蕎麦  
・蓑笠の吊るさる庵鹿威し  

  比呂  
☆今日もまた荼毘の煙や秋の空  
☆小走りの若き神鶏新松子  
・新蕎麦や手打てば寄り来池の鯉  
・文弱の夫の猛き歩草紅葉  
 返り花起きぬけの水歯に染みて  

  青樹  
☆再びの野分の後の空深む  
☆新蕎麦を打ちたくましき媼の手  
・新蕎麦の打ち立てことに美味と客  
 秋晴れや舟は陸へと逃げ惑ふ  
 幼児も二十歳を迎えそばの花  

  信子  
☆相席の卓の年輪走り蕎麦  
・重陽や関東平野に雲なくて  
・折り返すマラソン走者秋の空  
・菜園の一畝ごとの秋日和  
 秋天に東京タワーとスカイツリー  

  美恵子  
☆新蕎麦の張り紙杉の大板戸  
・新蕎麦や父の技継ぎ若女将  
・美味そうな柿の絵手紙秋の空  
・新蕎麦や都会言葉の客溢れ  
 どこまでも高し美し秋の空  

  昭雄  
☆石臼を零れて青き新蕎麦粉  
・展げ置く和綴ぢの蔵書秋曝書  
・蘊蓄を味のひとつに走り蕎麦  
 岩肌に錦の衣那須ヶ岳  
 塒へと孤高の翼秋夕焼け  

  雅枝  
☆ビル一面の窓秋天を写し込み  
・新蕎麦の香の満つ店の縄のれん  
 秋空に男体山の迫り来る  
 大盛りとだけの一言走り蕎麦  
 女心の例えとなすな秋の空  

  良人  
・大欅秋の空へと枝張りて  
・那須岳の先は陸奥秋の空  
・鱗雲西に広がり秋来たる  
 新そばや店うちそとに並ぶ客  
 夕日さす域は半分秋の空  

  聖子
・茜色の影をつくりて秋入り日
・懐かしき友新米を携へて
・秋の雨軒を伝ひて古本街
 秋の風日の落ちてなほ雲流る
 日が落ちてからはつきりの雲は唐突

  巴塵
・新蕎麦や二枚重ねの蒸籠来て
・卓袱台を囲みて祖母の走り蕎麦
・縄のれん出し新蕎麦と新ばしり
 水彩のまだ滲みゐる秋の空
 風羽織り漫ろ漫ろに秋の空

  木瓜
・短めの寸の割り箸走り蕎麦
・豆味噌と織部の皿へ新生姜
 秋深しさて今なにをするものぞ
 窓を開け捨てるもの捨て秋の空
 熟々と唯我独尊熟柿食む

  敬子
・病む人の日毎念仏秋の空
・船に描く唐草模様鰯船
 ほつそりと風のぬけゆくホトトギス
 長生きに腹式呼吸秋の空
 新蕎麦の混み合ふ峠の暖簾かな

  英郷
・積み上げし流木に坐し秋の空
 巻繊汁を合はせて美味し走り蕎麦
 秋天や山から山へ送電線
 里山の裾に広がり蕎麦畑
 新蕎麦を舞茸汁につけ啜る