宮澤淳一「触感の美学」1993.02----グレン・グールド『バッハ:インヴェンションとシンフォニア』(SRCR-9171)
《インヴェンションとシンフォニア》ほどグレン・グールド(1932〜82)の個性が不思議な輝きを放つ録音もない。1964年(日本では65年)の発売以来、斬新な解釈で多くの人々に感動を与えてきたロングセラー盤ではある。だがこの録音は、グールド特有の硬い音色に加え、本人の歌声、椅子のきしみといった雑音が特に目立つ。それだけに、ピアニスティックな解釈や、学習教材としての模範演奏を期待する向きには、あまり歓迎されなかったことも事実だ。しかも、このアルバムにはほかの盤にはない(原本は傍点)奇妙な瑕庇がある。ピアノがあちこちでつぶれたような音を発するのだ。これはハンマーのリバウンド(乱打・二度打ち)といって、通常は楽器の整調(同上)不良とみなされる現象である。なぜグールドは、こうした問題のある演奏をレコード化したのか。その理由はグールドとピアノとの関係に隠されていると思われる。
-----
と、次から面白くなるところで引用終わり。