生  命  の  風
                          大代 河 村 隆 夫


 ふるさとを離れて、疲れたとき、私はいつも深い森を思いおこした。記憶の森を流れる緑の風にふれると、孤独は癒され、心の底からよみがえる生命を感じた。
 思い出の森は、曾祖父が丹精こめて手入れしたものだと母から知らされたのは、つい15年ほど前のことである。私も、娘たちに、森の生命の風にふれさせたいと思いたったのは、それからしばらくしてからのことだった。
 その願いはあっても、人手がなかった。やがて、シルバー人材センターを人づてに聞いて、森の手入れを依頼した。
 森は蘇った。
 娘たちはこの森を無邪気に駆けめぐっている。成長した彼女たちが、孤独に沈んだとき、思い出の森の緑の風が、ふたたび生命をよみがえらせてくれることを、幼い娘たちは、まだ知らない。

(設立10周年記念誌「かなや」・発行者(社)金谷町シルバー人材センター・発行日 平成9年6月14日)

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