磐梯山、西吾妻山、安達太良山、 月山、岩手山、鳥海山、男体山(単独行

今回の山旅はペンション引退後の心の空白(?)を埋め、第三の人生を上手くスタートしたいとの願望がありました。一般論から言えば72歳の老人が決行するには無理を越えて無茶すぎる計画です。当初の計画の岩木山と八甲田は達成できませんでしたが7名山を踏破したので満足感はあります。これで百名山は年齢と同じ72名山を踏破したことになります。今後は毎年一山を登り100歳で100名山達成が夢です。命が尽きたら終了です。総歩行時間は32時間。車の走行距離は2107kmでした。全行程車中泊。日帰り入浴箇所は休暇村裏磐梯、蔵王大露天風呂、休暇村網張、川原毛大湯滝、高湯温泉、夫婦淵温泉、西の河原露天風呂(草津)。

・6月9日 移動日 清里(6:00)~磐梯高原友人宅(11:00)
・磐梯山(1816m) 6月10日(金) 晴 2時間50分
八方台登山口~(4:30)~中ノ湯跡~(4:45)~弘法清水小屋~(5:45)~山頂~(6:0 5 6:10)~八方台登山口(7:20)
・西吾妻山(2035m) 6月10日(金) 5時間25分
デコ平口~(8:15)~ゴンドラ山頂~(9:00)~西大峰~(10:35)~山頂~(11:20 11:30)~西大峰~(12:10)~ゴンドラ山頂~(13:00)~デコ平口(13:40)

今日から気の遠くなる山旅の始まりである。前夜の駐車場には車中泊が3台いたが朝は5台くらいに増えていた。前日に約350kmの高速道を飛ばしてきた影響なのか少し体が重い。慌てるなよ!!ゆっくりゆっくりと自分に言い聞かせて歩を進める。若いころから走っていた陸上長距離の悲しい性でついつい小走りになってしまう。中の湯跡と地図にあるので温泉でも湧いていたら帰りに浸かろうと探したが見つからなかった。間もなく山頂に到着。本日の初登頂を狙ったが先客が2名いた。残念。登山口に一気に下る。7時20分。これで今日の終わりとはチョット勿体ないので西吾妻山に向かう。

西吾妻山登山口のデコ平には登山者の車は無い。高度を上げるにつれて体が重くなる。足を懸命に前に出すが歩幅が稼げない。やはり前日の車の移動の疲れが残っているようだ。(当然か!6月15日で72歳)喘ぎながら重い体を持ち上げてようやく山頂。下りはさらに体を支える筋肉が疲労していてエンジンブレーキ(?)が全く利かない。登り以上に難儀しながら下る。標準コースタイムをオーバーしてしまった。珍事である。先が思いやられる。こんな時には温泉に限ると休暇村裏磐梯で日帰り入浴し疲れを取った(私は休暇村の会員のためにポイントを使用)西吾妻山は全山貸し切りで誰にも会わなかった。

・安達太郎山(1699m) 6月11日(土) 快晴  4時間45分 
沼尻登山口~(4:40)~船明神~(6:25)~山頂~(6:55 7:15)~沼尻登山口(9:25)
「智恵子は東京に空が無いといふ。ほんとの空が見たいといふ。私は驚いて空を見る。
桜若葉の間(あいだ)に在るのは、切っても切れないむかしなじみのきれいな空だ。
どんよりけむる地平のぼかしはうすもも色の朝のしめりだ。智恵子は遠くを見ながら言ふ。阿多多羅山(あたたらやま)の山の上に毎日出ている青い空が智恵子のほんとうの空だといふ。あどけない空の話である」

真夜中に小便に起きると満天の星空が輝いていた。早朝に目覚めると智恵子抄の「本当の青い空が広がっていた。一晩寝たので昨日の体の重さも和らいだようだ。登山口の駐車場には誰もいない。

沼尻側から見る安達太良山は赤茶けた噴火口の荒々しさが目立ち智恵子抄のイメージから程遠い。登山口周辺にも硫黄の臭いが漂ってくる。今回の山々はいずれもれっきとした火山の山ばかりである。特にこの山は「噴火口跡には有毒なガスが漂うので注意してください」と注意書きが掲げてある。身体も山歩きに馴染んできたようで今朝は快調に高度を稼ぐ。問題は下りでエンジンブレーキ(?)が利くかどうかである。船明神から見下ろすと沼ノ平火口跡からガスの臭いが湧きあげってくる。風があるので問題はなさそうである。やがて山頂。
何だ!何だ!山頂には3~4人いる。私が登って来た反対側からもぞろぞろと登る姿が見える。あだたら高原スキー場のリフトが動いているようだ。そうか!週末なのだ。今日も一番乗りは果たせず。下りのエンジンブレーキは効きがもう一つだが楽にはなってきた。標準タイムを1時間ほど下回った。良しよしこの調子である。下山後に蔵王温泉の大露天風呂に立ち寄り月山の姥沢登山口に向かった。

・月山(1984m) 6月12日(日) 晴 4時間30分
姥沢(志津口)(4:30)~牛首(6:10)~山頂~(6:45 7:05)~姥沢(9:00)

蔵王温泉の大露天風呂の名湯で疲れが取れ、運転にも余裕が感じられ無事に月山志津口の姥沢駐車場に早めの到着になった。いつものように登山口の確認を行う。週末の駐車場はスキーヤーやスノーボダーで一杯。早朝のためまだ動いていないロープウェーの真下を直登し山頂駅を通過する。マーキングの赤旗沿いに雪渓を横切る。雪渓がある時ははるかかなたのマーキングめがけて最短距離を進めるので効率的な登山ができるので大助かりである。やがて、牛首のコルに到着。水羊羹などで腹を満たす。ここからは雪のない登山道を登る。ハクサンイチゲやシラネアオイが美しい。立派な社が立つ山頂に到着。今日も先行者に初登頂を許してしまった。帰路は雪渓を登山靴の踵を力強く踏み込み一気に下る。雪解け水が流れる沢で喉を潤し、ボトルに冷たい水を入れ登山口に到着。標準タイムを1時間10分下回った。

予報では明日は雨。次の鳥海山回避し岩手山を先にして移動日に充てよう。野趣豊かな川原毛大湯滝で疲れを取ろうと決める。17時頃に到着し大湯滝の温泉に浸かる。時間が遅かったので誰もいない。のんびりと浸かっていてツキノワグマが「おじさん背中でも流しましょうか?」なんて出てくると困るので早めに切り上げた。今夜は栗駒山の登山口の村営須川温泉駐車場にした。一晩中強風が車を揺らした。

・6月13日 移動日  曇りのち小雨
須川温泉駐車場(5:30)~車~休暇村網張入浴&昼食(10:30 12:30)~岩手山馬返駐車場(14:30)
・岩手山(2038m)6月14日(火) 小雨後時々晴 5時間10分
馬返登山口~(4:40)~不動平避難小屋~(7・00)~山頂~(7:30 7:45)~不動平避難小屋~(8:10)~馬返登山口(9:50 10:10)

岩手山は50年前に亡父と弟と3人で八幡平~藤七温泉~岩手山~秋田駒ヶ岳の縦走を試みたが亡父の体力等で岩手山は回避し秋田駒ヶ岳に向かった思い出の山である。私の現年齢はその時の亡父を遥かに超えている。前夜から小雨が降ったり止んだりの天候である。3時に起床したら雨は止んでいたが食事の支度を始めたら再び小雨が落ちてきた。「中止して帰ろうか?」「天気予報は晴れると言っている」と心の中で行ったり来たりの繰り返し。3時50分頃に岩手ナンバーの車が駐車場に現れて登山準備を始めた。地元の登山者が登りに来たのだから雨はないだろう?決行だー。決断は早かった。

相変わらず小雨がポツリポツリと落ちていたが間もなく止んだ。山頂付近は濃霧が漂い山頂は見えない。このコースは新旧道が所々でクロスしている。私はすべて新道を選択した。勾配が急だが私の身体は山にすっかり馴染んできたのでテンポよく高度を稼ぐ。やがて不動平避難小屋に到着。小屋の前に冷たい清水の飲み場が設けられている。乾いた喉を潤した。これも登山の楽しみの一つである。

外輪山の焼走が目の前に見える。山頂はもうすぐである。細かな噴石を踏みながら高度を上げていく。焼走に到着。上空は晴れていて時折、陽が差すがガスが風に流れているため山頂が何処かは見えない。たくさんの道祖神(?)とともに山頂と思われるピークが逃げ水のように現れては消える。山頂付近の常である。今日は初登頂である。水ようかんやオレンジを胃に流し込み山頂を後にする。不動平避難小屋でペットボトルに冷水を詰めてそれゆけー。登山口の岩手ナンバー登山者とすれ違う。経緯を丁寧に話し「お陰さまで帰らずに登ることができました。ありがとうございました」とお礼を述べた。彼は一か月違いの同い年であった。これもなんかの縁である。エンジンブレーキ(?)は絶好調で軽やかに駆け降りた。標準時間を2時間30分下回った。車の運転も軽やかに鳥海山登山口駐車場に14時30分に到着。 登山口には山小屋が一軒ある。心落ち着けて小屋に泊まろうかな?などと貧乏人にふさわしくない考えがチョッピリ頭をよぎった。由緒正しい貧乏山旅に徹して車中泊にした。

・鳥海山(2236m) 6月15日(水) 晴 6時間10分
吹浦登山口~(4:05)~御浜小屋~(5:25)~七五三掛~(6:00)~山頂~(7:20 7:30)~御浜小屋~(8:10)~吹浦登山口(10:15)

ビジターセンターの人から数日前に駐車場付近にツキノワグマが出没していたと昨夕刻に聞かされていた。今朝も先頭でツキノワグマと雨粒の露払いを買って出た(?)。避難小屋から昨夜の雨がハイマツに残っていて体に容赦なくまとわり付く。ゴアテックスを着用すればよいのだが暑さで汗が吹き出し中から濡れてしまうのでそのまま登る。強い太陽光が差しているので森林限界を過ぎれば自然に乾くだろう?と濡れるままに登った。雪渓があちこちに残っていて美しい光景である。眼下には日本海。野鳥の渡りで有名な飛島も良く見える。避難小屋から先はハクサンイチゲの群落があちこちに見える。七五三掛から外輪山コースで文殊岳、伏拝岳、行者岳とピークを踏みやがて山頂。今日は初登頂を果たす。登る時にチェックして置き、花や風景はいつも下りながら撮影する。今日はお花畑が多いので時間がかかる。これも山旅の楽しみのひとつである。標準タイムを3時間下回って無事に下山。さーてと、今回の湯浴み旅の最大の楽しみの日帰り施設の高湯温泉でゆっくりゆっくり身体を癒した。観光客も同一入浴料250円は有難い。今夜は温泉のお姉さんの特別な計らい施設のすぐ上の駐車場を無料で使わせていただく。感謝。

・6月16日 移動日 小雨 高湯温泉~大内宿~川俣温泉~男体山志津口
・男体山(2484m)6月17日 3時間10分 曇志津峠(4:15)~山頂(6:00 6:20)~志津峠(7:25 7:45)

小さいころから眺めていた故郷の山である。「にしはし」と今でも標高を覚えている。しかし、登山者には標高が高いだけで魅力に欠ける山であったため、今まで登頂しなかった。厳冬期以外の富士山が登山者には不人気なのと同じ理由である。川俣温泉にのんびりと浸かり余裕で志津口登山口に到着。16時過ぎにガスコンロを準備しようとしたら3本目のボンベが装填できない。長い間、山道や林道を走ってきたので車の中でボンベが変形したのだろうか?夕飯と朝飯が温められない。最後の山とはいえ水羊羹やオレンジ、ソーセージなどでは空腹を満たせない。戦場ヶ原の三本松のお土産屋まで下り、夕飯を食べ朝飯用にお土産用のチーズや菓子類を購入し登山口に戻った。真っ暗闇の駐車場には今日も誰もいない。3時過ぎに目覚めると雨は落ちていない。この山は二荒山神社の神域である。実家は神社の氏子である。神域のためか登山道は整備されていない。直登が多く想像した以上に時間がかかる。山頂の眼下に切込・刈込湖が美しい姿を見せている。こんなに綺麗な湖だったかな?などと高校生の頃に歩いた記憶と大きな違いに驚いた。

清里に直行するには時間が早いので草津の西の河原大露天風呂に寄って9日間の疲れを癒した。大満足の山遍路旅でした。