『あなたらしいとは思いますが、わたくしには理解できません』
 
そう言い捨てて立ち去ったリュミエールをオスカーはイライラしながら探していた。
(あのやろ〜〜〜、オリヴィエの前で俺が反論できないのを良いことに、言いたい放題いいやがって…)
そりゃ、きっかけは俺だ。そんな事は判ってる。
でもあれに関してはリュミエールだって悪いじゃないか…これ見よがしに女王候補達と仲良くしやがって…。
 
元は軽いヤキモチ。
だいたいにして売り言葉に買い言葉でいった『女王候補だろうが立場なんて関係ない。本気になったらこの手に奪う』を、本気で女王候補に向けた言葉だと真に受けるか?
『女王候補』の部分を自分の名前に置き換えてくれれば、簡単にヤキモチを焼いていると判るだろうに。
いや、あいつは判ってて根に持ってるんだ。
そういう奴なんだ。
優しくて懐が深い振りをして、実はとんでもなく心が狭くて頑固で強情で嫌みな奴なんだ。
 
…俺が同じ守護聖同士で男同士の自分を気にして気にしてどうしようもなく気にしていることを知った上で、
平気であんな嫌みが言える奴なんだ…。
 
オスカーは情けない気分で頭を抱えた。
我ながらなんであいつにこんなに弱いのか説明できない。
単に初対面の時の印象が『たぐいまれな美少女』だったせいなのか、相性が悪いだけなのか。
両方なんだと思う。
あの時俺はインプリンティングされてしまったのだ、『どうしようもなく理想そのままのタイプ』だと。
理想そのものの外見と性質を持った奴が相性の悪さで対立しているため、狩人の本能のようなものまでフル回転であいつを追いかける。
ああ、畜生。
あの根性悪!
 
 
★★
 
 
(口先ばかり飾り立てて、人の心に波風を立てるだけ立てて喜んでいる、どうしようもない人)
リュミエールはゼフェルから渡されたハープを抱え、苛つきながら1人森を歩いていた。
エレキハープは以前よりも重量が増しているらしいが、腹が立っているせいか重さを感じない。
 
…わたくしが女王候補達の力になりたいと考えているときはいちいち絡んでくるくせに、
自分は好き勝手に女王候補達に甘い言葉の大安売り。
あれだけ歯の根が浮くようなことばかり言っていると、いざ本気になったときも誰も本気だと思いません。
その時になって、自分の口の軽さを思い出して青くなればいいんです。
 
オスカー相手になると、いくらでも皮肉な考えが浮かんでくる。
リュミエールは不意にその事に気が付いて、沈んだ顔になった。
 
あの人のこととなると、感情が荒立つばかり。
こんな自分は好きではないのに…いつもいつもあの人のせいで。
あの人はいつもわたくしを苛立たせて怒らせて喜んでいる、本当に嫌な人…。
 
リュミエールは無意識に人の良い部分を探すクセがある。
オスカーの好いところも十分に知っているはずだ。
それがなぜか好感に結びつかない――尊敬すべきところが多々あることを知っていても、顔を見れば
嫌な部分ばかりを先に思い出して苦手意識に支配される。
支配されたあげくが、相手をへこませてやりたい衝動が顔を出す。
こんな事、他の人が相手では絶対にあり得ない、本来ならリュミエールがもっとも嫌う思考パターンだ。
それなのにオスカー相手ではもうどうしようもない。
 
 
…なぜ、あの人だけにこんなに心が荒らされるのでしょう…
リュミエールは森の湖の畔に腰を下ろした。
 
やはり、すり込みでしょうか、初めてあったときの…。
 
初めてあったとき…オスカーはやはりナンパをしていた。
そのあげく、自分まで女性と間違えてナンパをしかけてきたのだ。
腹が立つと同時に、向けられた熱い視線と言葉にふっと顔が熱くなるのを感じた。
そう感じた自分が腹立たしくて、感じさせてあの男が腹立たしくて、結局それがずっと後を引いている。
ああ、もう!
あのいい加減な口先男!
 
 
『あいつが気になって気になってしようがない』
『あの人が気になって、どうすることも出来ない』
 
意識しすぎてつい喧嘩になる炎と水の守護聖。
刷り込みは深くて強い。