イズ
 
聞くが良い、男達よ。
己の飾りとして女を求める男達よ。聞くが良い。
女の言葉を。
 
男達に問う。
何故にそなた達は私をあがめる。
何故に私をほしがる。
答えるがいい。ただし、けして口にしてはならない答えがある。
私が持つ美貌ゆえに。その一言。
そのような答えしか持たぬのか?それ以外の答えを知らぬのか?
男達よ。
では、そなた達は、顔の造作という、表皮一枚が作り上げる仮面に惑い、
私を人ではなくただの勲章、王冠代わりの「物」に仕立て上げたのか?
答えられる者はいるか?
何故に、そなたらは私を求める?
 
全ての者が、私を「象徴」となす。
それは何故?
外見か?慈悲か?愚かなる者達。
それら全ては私の仮面であり、私の一部に過ぎない。
弟よ。もっとも近しき者。
そなたすら、私を象徴として愛す。
そなたを愛し、守る、愛しき世界の象徴として。
では弟よ。
私亡き後、そなたはどうする?
世界を破滅に導くか?
愚かなことを。たかが女1人と世界を引き替えにするか。
まあ、よい。
するがいい。世界の破壊を。
男達は自らの理想に溺れ、その行為に熱中する自らに陶酔し、その行為の意味すら考えぬ。
勇者よ。帝王よ。
それはそなたらも同じ。
そなた達が求めたのは、単なる自分達が行う御業に対しての陶酔。
それを完遂させるための「勲章」とされた女が、どれほどの怒りを持っていたか、今となっても分かるまい。
私と勇者が不義だと?
お笑いだ、帝王よ。
女の目線1つに惑わされる愚かな帝王よ。
私があの男に向けたのは、恋などではない、怒りだ。
 
あの男が私を求めたのは、私自身を勲章となしたためでもない。
あの男は、私という存在に何一つ価値を持たなかった。
たとえ帝王の命令が遙かなる山の頂にあるという石ころであっても、あの男は私を連れに来たときと
同じ目をして使命を果たしたのだろう。
あの男にとっては、私はただの物であった。
そのような目で見られ、何故に女が喜ぶ?
何故に女が愛しいと感ずる?
愚かな帝王よ。
お前は私の怒りすら見間違える。
それも良かろう。
私はそなたも物としてみる。
そなたもそれは同じであろう。
そなたが私を見る目。
それは単なる冠を見る目と変わらぬ。
お前は自分がどんな目をしているか知っているか?
私のこの頬に一筋の傷でも出来れば
そなたはあっという間に私に飽き、新たなる勲章を求めるのだろう。
 
まあよい。
それもよかろう。
今、そなたは私だけを見ている。
では私をもっと見るがいい。
私以外の物が目に入らぬほどに、私だけを見続けるがいい。
ほら、そなたの目は、私以外の物全てに対し、疑いを持ち始めた。
全ての物が、自分の勲章を奪おうとしているのではないかと、疑心に満ち始めた。
そのままに行くがいい。
私はそなたの物には、ならない。
そなたの姿すら見ない。
私が見続ける男、私を最高の怒りと屈辱に満ちさせた男。
私の目にはいるのは、その男だけ。
 
帝王よ。
その狂った眼で見るがいい。
私の視線を受けるのは、勇者のみ。
 
帝王よ。
怒りのままに私を殺すがいい。
それこそが破滅の序曲となる。
私の表皮だけに惑わされた男達よ。
真実を見れぬ目を閉じ、今一時私の声のみに耳を傾け、聞くが良い。
女の予言を。
 
世界は動くだろう。
私の死は私だけにとどまらず。
私に関わった物全ての生に影を投げかけ、誰1人として穏やかな生を全うすることなど出来ぬだろう。
世界は揺れる。
均衡の崩れた世界は、新たな秩序を求め始める。
私の死は、そのきっかけとなろう。
 
聞くがよい、男達よ。
世界は女によって生まれ、女によって育ち、そして女によって消滅してゆく。
 
 
TOP