★注意!この話は、全て捏造です。どこをどうプレイしても、ゲーム中、今回の話に関するイベントはありません!
ただのお遊びだと思って、笑って許してやってくださいませ!
 
◆ゼネさんのミョーに長かった一日◆
 
ロストール、その市内にある冒険者達御用達の宿。
その一室で、早朝、けたたましいほど元気な女の声が、響き渡った。
 
「起きて、起きて!さあ、みんな、起きるの!!」
部屋で寝ていた男が2人、何事かと起きあがる。
当代随一の名工、現在は自称「ただの飲んだくれ」ドワーフのデルガドと、
近頃、無事に姉離れを果たしたらしい、メンバーのほぼ全員に「姉そっくり」と言われた女顔の剣士、セラ。
彼らを叩き起こしたのは最凶の女魔道士ではなく、彼らの最強のパーティーリーダー、リュミエである。
 
リュミエは早朝にも関わらず、元気一杯で嬉しさを隠す気もない、というような上機嫌の顔ではしゃいでいる。
「みんな!ニュースがあるの!すっごいニュース!夕べのうちに話そうと思ったのに、
2人とも遅いんだもの!飲んべえ男って、ほんとに手間がかかるわね!!」
別に酔っぱらって遅く帰ったわけではないセラが(でも、飲んでる。ただのザル)、うっとおしそうに言った。
「…ニュースとは何だ…、仕事か?」
リュミエは片手を腰にあて、もう片方の手を伸ばすと、人差し指一本をたてて、ちっちっとふって見せた。
 
「ふっふっふ〜、違う〜、もっといい事」
そう不気味に笑うリュミエの後ろから、ちょこんとルルアンタが顔を出した。
リュミエはそのルルアンタの両肩に手を当て、自分の前に出すと、まだ寝ぼけてるような男2人に向かい、
元気に宣言した。
 
「ルルアンタは、昨日、酒場にてスカウトを受けました!今日の夜、踊り子としてデビューするのです!」
沈黙。
無言のまま、また寝ようとするセラに、リュミエは容赦なく毛布をひっぺがした。
 
「寝直してる暇なんてないの!今から出かけるの!今日のルルアンタのデビューのための、新しい服を見立てに行くんだから!!」
「2人で行けば良かろう」
うっとおしげなセラに、リュミエは断固として言い切る。
「駄目!酒場の客なんて飲んべえ男が多いんだから、飲んべえ男から見ても最高に可愛い服を選ばなきゃいけないの!だからあんた達2人も一緒に行くの!」
あからさまに嫌そうな顔で反論しようとしたセラの隣のベッドで、可愛らしい声が響いた。
パーティー内最高の素早さを誇るルルアンタが、デルガドのベッドの上によじ登って、
例の得意の全開の笑顔で、有無を言わさぬおねだりポーズをしていた。
「ねえ、ねえ、デルガド叔父ちゃま。お願い、一緒に来てルルアンタのお洋服、選んで欲しいの。だめ?」
デルガドの厳つい髭面が、孫におねだりされた甘いおじいちゃんのように、でれっとゆるむ。
「うむ、わしではたいして役にはたたんが、それでもいいんかの?」
「うん!一緒に来てね、見てくれるだけで、ルルアンタ、嬉しいの」
和やかムードの隣に呆気にとられたセラの腕が、突然がしっと音がしそうな勢いで拘束される。
彼の腕に両手でしがみついたリュミエが、妙に気合いの入った顔で笑っている。
「うっふっふ、逃がさないからね。今日は、何があってもつき合って貰うから」
 
 
「叔父ちゃま、早く、早くぅ」
ルルアンタがぴょこぴょこと通りを走っていく。
その少し後ろから、すっかり乗り気になっているデルガド。
其処からかなり遅れ、隙あらば逃げ出そうとするセラと、その腕にがっしり両腕を絡めたリュミエの2人が
前を行く2人の後を追って、洋服屋へと歩いていた。
「ほら、早く」
「…」
セラの顔には「面倒くさい」と大きく書いてあるが、リュミエは全く気にしない。
鼻歌交じりで、浮かれた風に通りを歩いていく。
 
「早く、早く」
朝からにぎわう通りを、リュミエ達より先に角を曲がって服屋の前にたどり着いたルルアンタとデルガドが、店の中に入っていく。
それから数分後、ルルアンタ達とは逆の角を曲がって通りに姿を現したのは、ロストール総司令のゼネテス。
それとほぼ同時に通りにたどり着いたのは、セラをがっしりと拘束したままのリュミエ。
 
ゼネテスは目を疑った。
通りの向こう側から歩いてくるのは、セラと腕を組んで、妙に嬉しそうにはしゃいでいるリュミエ。
少し遅れてゼネテスに気が付いたリュミエが、片手をセラの腕に回したまま、手を振ってくる。
「あ、おっはよー。ゼネテス」
通りの真ん中辺りで、3人は遭遇した。
 
「朝早いね。意外〜」
リュミエがセラの腕に掴まったまま、いつもより少しはしゃいだ声で言う。
「…俺もたまにゃ、入り用な物を買いにとかな。お前さん達こそ、朝から…?」
「うん!今からね、洋服屋に行くの!あたらしい服を買うんだ!」
ニコニコと嬉しそうなリュミエが、不意にセラの腕に回した手に力を込め、さらにぎゅっと強くしがみつく。
それから、隣の男に、何か言いたげな視線を向ける。
ゼネテスは何かが背筋をすうっと通り抜けたような気がした。
 
(この期に及んで、往生際が悪い!)
(…)
リュミエは、自分がゼネテスと話している隙に、そろそろと逃げ出そうとしたセラを軽く横目で睨み付けた。
セラは疲れたように1つ息を吐き出す。
リュミエは絶対に逃がすものかと、さらにしがみつく腕に力を込めた。
 
「服…、男連れで行っても仕方ないんでないか?」
ゼネテスは、なにやら息苦しさを感じながら訊いた。
「ううん!今日、欲しいのはね、男が注目して目が離せなくなるよーな、そんな服なの。だから男の目で選んで貰わないと、意味ないの!」
ゼネテスの息苦しさが、さらに強くなった。
「…へえ、お前さんでも、そんな服を必要にすることがあるのか?」
「あったり前でしょ!女には、勝負服ってのが、必要なの!」
リュミエはきっぱりと力強く言い切った。
 
何か血の気が下がっていく気がする。
原因は分からないが、ゼネテスは今すぐ、この場を去らなければと思った。
目の前には、セラと嬉しそうに腕を組み、男を引き付ける服を買いに行くとはしゃぐリュミエ。
まるっきり、違う女を見ているようだ。
そう――自分が知っているリュミエとは違う、『女』のリュミエ。
「用事があるから…」
ゼネテスはそう言って立ち去るのがやっとだった。
 
通りの向こうに歩いていくゼネテスの後ろ姿を見送り、リュミエは少し不思議そうに言う。
「ゼネテス、なんだか様子がおかしくない?」
「朝から浮かれているお前に呆れたのだろう?」
「何よ」
リュミエが、セラを睨む。
と、先に店に入っていたルルアンタが顔を出し、2人に向かって手を振った。
「ねえ、遅いよ〜!早く来ないと、ルルアンタとデルガドおじちゃんとで、服、決めちゃうよ〜〜!」
とことこと走り寄ると、リュミエと反対側のセラの腕にしっかりとしがみつく。
一度も振り返らずに通りを抜けたゼネテスは、いつのまにか3人に増えていたリュミエ達に
気が付く事はなかった。
 
町の酒場で、ゼネテスは簡単な朝食をとっていた。
うまい家庭料理風の食事をしながら、ゼネテスはなんだか気分が落ち着かない。
ほんの数年で、大陸中にその実力を知らしめるほどに、冒険者として成長したリュミエ。
それだけ冒険の回数をこなしているという事だ。ロストールにもそうそう滅多に帰ってはこない。
帰ってくるたびに律儀に自分の所へ顔を出すので、なんだかずっとその成長を見守っていた気がしていたが、
よく考えれば、自分より遙かに長い時間、パーティーメンバーと一緒に過ごしているのだ。
 
自分の知らない部分があって当然じゃないか。
当たり前だが、気が付くとなんとなくショックだった。
 
「ゼネテスさん、リュミエさんに会いました?」
不意に酒場の看板娘、フェルムが側に来て問いかけた。
「あ…、さっき通りであったぜ」
とっさに返事をすると、フェルムは酒場の手伝いをしている町の女と一緒に、「やっぱりー」と言いあってる。
何か?と聞き返すと、フェルムは可笑しそうに「服を買いに行ったんじゃありません?」という。
「何で知ってるんだ?」
ゼネテスが動揺を隠しながら訊くと、フェルムは少しはしゃいだ風で答えた。
「昨日ね、夕方、ここに2人で来て嬉しそうに話してたんです。初めての日にふさわしい、最高にステキな服を朝一番で買いに行くって!」
「そうそう、すっごくはしゃいでたね。全く、仲がいいよ、あの2人は」
手伝いの女が相づちを打つ。
 
…仲がいい2人。初めての日にふさわしい服…。
ゼネテスの息苦しさがまた激しくなる。
「あとでまた来る…」
そう言ってゼネテスが店を出たあとも、女達は話し続けている。
「まるっきり、親子か姉妹ですよね。リュミエさんとルルアンタちゃんって」
「そうそう、いっつも仲良し」
 
 
ゼネテスはスラムのいつもの場所で、1人剣をふっていた。
どれだけふっても気分が晴れないのは、あの日以来だと思った。
あの日、アンギルダンと戦った後。1人でここで剣を振るっても、振るいきれない重い気分に沈んでいたとき、
リュミエが来た。
あの娘が来て、話をして、重苦しさを吹き飛ばした。
…いつのまにか、とても大きくなっていた娘。でもそれを見守っていたのは、自分ではなかったという事か。
ゼネテスはやや自嘲気味に思う。
当たり前だ、誰だって子供から大人になる。
…俺は、ただ、いままで見逃していた…、気が付かないフリをしていただけか。
 
そう考えるのが、何でこんなにきついのか、その理由もよく分からない。
リュミエは相棒であって、それは変わらない。あれがどこで、どんな男に恋したって、あの娘が口から出した言葉を、誓いを、覆すはずはない。
分かっているのに、…自分との関係が変わるはずがないと分かっているのに。
何でこんなに、もやもやするのだろう。
ゼネテスは気分を変えるのを諦めた。今は何をやっても無駄だと、自分で気が付いたのだ。
もやもやを抱え込んだままの時間は、疲れるくらいゆっくりと過ぎていった。
 
長い一日が過ぎ、やっと日暮れになると、ゼネテスはうっそりとした気分のまま、いつものスラムの酒場へとやってきた。飲んで忘れる、というのも在り来たりだが、別の女で気分転換する気にはなれない。
酒場は何やらいつもより賑わっている。
ゼネテスはそのざわめきに不思議になり、顔見知りを見つけ、訊いてみた。
「なんか賑やかだねぇ、今日はなんかあるのかい?」
「よ、ゼネさん、そう言えば、昨日は見なかったねぇ、今日は…」
ゼネテスは男の言葉を聞いていなかった。酒場の中に、1人で座っているセラを見つけたのだ。
 
普段は特別気にしたことはなかった男。単に顔を知っている、その程度の男だったが。
ゼネテスは黙って近づくと、勝手に同じテーブルの席に座った。
セラは一瞥しただけで何も言わない。前から無愛想だと思ってたが、全く無愛想だ。
なんだかゼネテスは憮然とする。顔はいいかも知れないが…、気に入らない。
 
「1人か?」
そうゼネテスが言うと、セラは物憂げに頷いた。
「リュミエは一緒じゃないのか?」
さらに訊くと、面倒くさそうにセラは顎で酒場の奥の方をしゃくった。
「あっちで何をしてるんだ?」
「…着替えだそうだ」
何でリュミエが酒場で着替え??要領を得ない会話に、ゼネテスが顔をしかめた。
その時、ぽんと肩を叩かれる。
「あ、ゼネテス!よかったぁ、来てくれたんだ」
ニコニコとしているリュミエ。
その格好は。
 
「…いつもと変わらないじゃないか…」
しげしげと頭から足の先まで見ながら言うゼネテスに、リュミエは目をきょろりとさせた。
「何で私が変わるの?」
「いや、こいつが、…着替えって…」
ゼネテスがセラを指差す。
「着替え?そうそう、ちょうど終わったの、見てよ〜〜」
リュミエは嬉しそうに酒場の奥、カウンター前までゼネテスを引っ張っていった。
 
すると人混みに紛れて見えなかったデルガドが、ちゃっかりと一番前に陣取っていたのが分かった。
客が大きく拍手する中、奥の部屋から可愛らしく着飾ったルルアンタが登場する。
まるで花畑を思わせる、ピンクのリボンをふんだんに使った服に、蝶をかたどった髪飾り。
愛らしい笑顔と相まって、まるで妖精のようだ。
 
ゼネテスがぽかんと口を開けているその横で、リュミエは相変わらずはしゃぎまくっている。
「ね、ね、可愛いでしょ??お客の目はもう釘付け!朝一番にみんなで5時間もかかって選んだかいが
あったってもんでしょ?」
「みんなって…」
ようやくゼネテスが訊くと、リュミエはうんうんと今朝の苦労を思い出すように、何度も頭をふった。
「そうなの〜!飲んべえ男達の意見が聞きたくて、朝からみんな連れて行ったんだけど、セラったら、隙があれば逃げようとするんだもの!洋服屋まで連れて行くだけで一苦労よ!」
連れて行くまで一苦労…、てぇことは、あれは腕を組んでいたのではなくて、逃がさないように捕まえていた?
 
今朝からの事を思い出すゼネテスには気が付かず、リュミエはさらに続ける。
「もうね、今日はここの酒場での踊り子デビューだから、やっぱり最初が肝心だと思ってね。絶対勝負に勝てる!って言うような、最高の服を選びたかったの!だって大事な妹分だもの。絶対絶対、みんなに可愛いって言わせなきゃって思って、もう〜、頑張ったのよ!昨日からね、フェルム達からも意見を聞いて、買いに行く店はどこにするかって、そこから選んで」
そんじゃ、フェルム達が行ってた仲良しの2人って、…、リュミエとセラじゃなくて、リュミエとルルアンタの事…。
 
 
「は…、ははは」
ゼネテスは力無く笑った。リュミエが不思議そうに見上げてる。
「どうしたの?」
 
はは…、これが笑わずにいられるか…。俺は朝から、何をしてたんだ…??
完璧脱力したゼネテスの前で、ルルアンタが可愛らしくタンバリンを叩きながら、愛らしい歌を歌い始めた。
大喜びで拍手する客を見て、リュミエは自分のことのように喜んでいる。
「見て、見て、可愛いでしょう〜〜」
 
はは…、そういう事ですかい。
全く俺は、朝から何をしてたんだ??
一日、愚にも付かないことをぐだぐだと、何を悩んでたんだろう。
くるりとつま先立ちでターンするルルアンタに、大きな拍手がわいた。
それに大喜びのリュミエ。
 
突然ゼネテスは大声で笑い出した。
一日中、何をやってたんだ、俺は。そう思うと、やたら笑えてきてしようがない。
発作的な笑いに驚いたリュミエが、顔を上げた。
「どうしたの?飲み過ぎ?」
まだ飲んじゃいないってば、今夜は。
ひとしきり大笑いして今日の自分を笑い飛ばすと、彼は指笛を吹きながら、
歌い踊るルルアンタに上機嫌で声援を送った。
「良いぞ、ルルアンタ!」
その声を聞いたルルアンタが、にっこりとまたターンをした。
 
大盛況の店内、人垣の一番前で、ゼネテスはリュミエと一緒に笑いながらルルアンタの踊りを楽しんでいる。
 
その現金な様子に、彼らの後ろの席では、珍しく可笑しそうにセラが1人声を潜めて笑ってた。
 
 
 
何はともあれ、ゼネテスの妙に長かった一日は、笑いのうちに暮れていったのだった。
 
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ものすごい言い訳――最初にも書きましたが、これは完璧、全て、捏造です。妄想です。うそっぱちです。
こんなイベントはありませんので、万が一にも探さないでくださいね。(^^;;まあ、たまには、こんなのどかな一日があっても良いんじゃないかな〜とか思ったので…。逃亡!