香川県の中でも、綾歌郡と言えば特別。
・・・・・そう、言わば”讃岐うどんのふるさと”
そんなフレーズに誘われて、田畑の広がる田舎町に俺たちは足を踏み入れた。
畦道を、おばあちゃんの買ってくれたふなっの車が往く。
“行く”より“往く”が相応しい。まさに往生よ。
しかし・・・・・・
カーナビに番地が登録されていない。
着いてはみたが、ありそうなところに店が無い。
・・・・・・閉まっている。
数々の難関を潜り抜けている間に、午後の太陽は夕の太陽へと変貌しようとしていた。
おい、ちょっと待ってくれよ。せめて今日中にもう一食。それが我らの願い。

「あ、あった、赤坂だ」
例のサイトの一覧には「製麺所つき」と分類されているうどん店「赤坂」の、その看板を見つけたのだ!
「馬鹿、よく見ろ。赤坂治療院って書いてあるだろう」
「貴様こそよっく見ろ!その横だ!」




か〜〜何故に治療院がうどん屋!ご丁寧に「ココだヨ!」とまで・・・・
裏に回ると、斜面地の上のちょっとした空き地に、ぽつんと建っているのが、一見民家に見えるが、辛うじてうどん屋と判る店が!


ここが、讃岐うどんの真髄?ちょっと、山奥に修行する達人、てなムードで思わず期待してしまうけど、そういう無担保の期待って割とすぐ裏切られがちー。
とかなんとか、ドキドキしながら入店である。


写真がブレブレで申し訳ない。
「冷たいの、温かいの。だしと醤油あります。ネギは自由に入れてください」
と張り紙があるだけの、殺風景なカウンター・・・・メニューもなにもなし、どう注文したものか俺たちが途方にくれた、その時ッッ!!
「ぬーくいの〜〜?つめた〜いの〜〜?ひと玉100円、お出汁は120円やで〜」
奇ッ怪なるメロディーを口ずさみ、そいつは現れた!
ババーン!!

驚愕とあせりを表現する手ぶれ。

「ぬーくいの〜〜?つめたいの〜〜?ひと玉100円、お出汁は120円やで〜」
その数え歌の中に、事件の謎を解く全ての鍵が隠されていようとは・・・・・・それは、後々明らかになろう。
じゃ、じゃあ、冷たいの出汁で・・・
ブルースとふなっは温かい出汁、なんと、それで360円。うどんに出汁かけて、本当にそれで120円なんだ!?立ち喰いうどん以下だ!
ドボン!
え?
無造作に並べてある玉を一瞬だけ湯掻いて、はい、ぬくいの。
そして、冷たいのは、もう、どんぶりに玉入れて出汁注ぐだけ・・・・・
ホントに立ちうどんかよ!!
カウンターの上にある浅葱を、勝手に入れろというが、さび付いたキッチンバサミは、満足に切ることもできない。
店内には椅子も無い。店の外のベンチに腰掛けて食えという。
こ、この苦労に苦労を重ねてたどり着いたうどん屋でこのような仕打ちを・・・・


ギャー!!
う、旨い!
なんと、旨い、旨いよ!
うどん観が変わった!本当に、俺の人生におけるうどん観が激変したよ!
弾力があるのにねっとりしてて、粉の旨みが判るって言うか、
ごめん、文章で表せない・・・ホント、ごめん。とにかく旨いんだ。
こういう根本的な旨さを文章では表現しきれない。少なくとも俺の文章力では。
あえて、いきいきのうどんと較べて言うなら、コシそのものはいきいきのがちょい上。その分、歯が噛みこむときの包み込むような柳腰の弾力があるんだ。それで、粉の甘みって言うか旨みが感じられるんだ。そんな感じ。
俺とふなっは思わずお替りだ。これは、出汁じゃない方、醤油のみも喰っておかねば。
が、
いない!おばちゃんがいない!神出鬼没とはこのことか?
「すんませーん!お替りください」
俺の呼びかけに、障子を開けて現れたのはおじちゃん。おそらくおばちゃんの連れ合いだろう。
「あ〜?さっきまで居ったのに・・・・・全く、忍術だか算術だか知らんが・・・」
ゲ、ゲェェェ!「忍術だか算術だか」思わぬところで、一生耳に残るフレーズを耳にしてしまった。すげえ!この夫婦、やっぱり只者じゃねえ!
なんとか戻ってきたおばちゃんに、俺のぬくい醤油、ふなの冷たい醤油を頼むと、どんぶりに玉が入ってくるのみ。
醤油と浅葱は勝手に掛けろということだ。
カウンターに240円を置くと、「うどんだけは100円だよ」と40円を返してくるのだ。
いいんですか?浅葱、死ぬほどぶっこんでますよ、俺。
驚愕の安値。驚愕の旨さ。驚愕の夫婦。恐るべし讃岐うどん。恐るべし綾歌郡。恐るべし、赤坂の夫婦。

ちなみに、醤油だけだと心持ち粉の旨みが強くく感じられたような気がします。
でも、イリコの香りがぷーんと立ちのぼる出汁入りの方が、風味がいいかな。
次ぎ来たときは、多分また2つ喰ッちゃうだろうけど。


さて、次は、なんとうどん以外のお話。

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