sec1:ライトスタッフ参上!
 ここに「ライトスタッフ」という集団がある。
 ライトスタッフは10年以上前から離合集散を繰り返してきた流浪のオタク集団であり、その構成人数は7人前後を常としていた。
 彼らは一騎当千の強者(オタクと読め)であり、別名オタク界のワイルドセブンとも呼ばれている(誰も呼んでない)。
 そこには様々なオタクがいる。格闘オタク、少女漫画オタク、パソコンオタク、オーディオオタク、ゲームオタク、SFオタク、酒オタク、ヘビメタオタク、コスプレ(を着せる)オタク、食い物オタク、それはもうありとあらゆるオタクが集った最強の集団なのだ。
 その彼らがココ、10年前から変わらぬ待ち合わせ場所、池袋はイケフクロウ(池袋駅構内にあるフクロウの石像)に集まった!
 今日の目的はほかでもない、「台湾」である。
 台湾……そこはリージョンフリーの無法者王国。オタクと名のつくものなら一度は憧れる海賊中華帝国である。
 謎の版権無視ビデオや、謎のカンフー映画、謎のPCパーツ、そして正統清国ゆずりの伝統中華料理が楽しめる謎の電脳楽園帝国である。
 今回、我々は3月はじめに予定されているライトスタッフ定例会in台湾の航空チケットを取るため、イケフクロウに集まった。
 旅行予定者は五名。“セガマニア”ブルース、“毒舌王”すの字、“B級”杉並、そして今回のミーティングには不参加だが旅行そのものには参加する“たのしい”肉弾頭と“飲茶番長”タキオンである。二人はそれぞれ佐渡島と仕事場に島流しされており、今回は参加見合わせとなった。

 我々はまず、いつもの喫茶店、フレンチの鉄人直伝のケーキが食べられる“ガーデンバーガー”に向かった。
 時刻はじつに1300時、空は曇天。風は冷たい北よりの風で、「風雲」のBGMがよく似合う天候である。
 我々は喫茶店で思い思いのメニューを頼み、台湾というテーマについて熱く語り出す。だが、話題は徐々にずれ、「バトルロワイヤル=プロモビデオ論」から「謎の超古代生物オウム貝のツボ焼きはうまいか否か」まで多岐に渡った。
 そうやって激論を交わしつつ時刻はすでに1600時。そろそろチケット申し込みのタイムリミットである。我々は旅行代理店を訪れるため席をたった。
 我らの中で最も海外旅行経験の豊富なブルース軍師による「だいじょぶ、だいじょぶ、この時期なら台湾は混んでないから〜」という献策を受け入れて余裕たっぷりだった我々は、代理店のおねえさんに衝撃の事実を告げられる(このおねえさん、少々化粧がけばかった)。
「残り座席はあと7つですね〜。いまこうやっている瞬間にも誰かが予約しちゃうかもしれないですよ〜はやく予約しちゃいましょ〜予約だけならタダですよ〜はやく予約しちゃいましょ〜予約だけならタダですよ〜タダですよ〜タダですよ〜」
 さすがおねえさん、見事な商売上手である。我々は見事にはめられた。その場でチケットを予約させられ、ホテルの予約までさせられた。
 総額二七万円ナリ。
 我々は請求書を握りしめ、旅行代理店を出た。五人分ともなると、けっこうな金額になるものだ。
 我々は全員一致で請求書を肉弾頭のもとに郵送した。面倒なことはその場にいない人間に押しつけるというのが我々の変わらぬ流儀なのだ。

 郵便局から肉弾頭あてに請求書及び書類を発送したあと、我々は寒空の下を歩いた。
 途中、電波学園とかゆー、わけのわからない危なげな学校法人が新入生の募集をかけているのを発見して大笑いしたというエピソードもあったが、我々の足は誰いうともなくとある方向に向かっていた。
「なあ、どうする?」
「そういやアニメイトが新しくなったらしいよ。アニメのDVDとか日本で最大の品揃えとかいってるし」
「たまにはいってみっか。でも、覗くだけだぜ」
 池袋サンシャイン前。
 ここはオタクの聖地である。昼日中から銀縁眼鏡のやおい系同人レディースのおねえさまが出没し、デジキャラット命の肥満したオタクさまが闊歩するモーストデンジャラスな土地なのだ。
 さいわい今日はすいていたが、サンシャインでコミケが開かれた日など、ATフィールドを全開にした少年少女と、欲望を滾らせた大きなお友達がおしくらまんじゅうをする息苦しい空間である。
 我々は意を決するとアニメイトに突入した。エレベータで最上階にあがり、さっそくDVDコーナーを攻略する。だがそんな我々の目の前に最大の試練が降りかかったのだ!
「ガンダムフェアやってるってよ!」
 ガンダムオタクのブルースが真っ先にはまった。
 だが、幸か不幸かフェアとは名のみで、それほど珍しいものを置いているわけではない。いわば倉庫の売れ残りを集めてきました的なフェアだった。
「なーんだ、たいしたことないよねー」
 とかいいつつ、チェックしていると、我々の目の前にソイツがさりげなく陳列されているではないか。
「こ、これはぁぁぁぁ!」
「うおおおおおおおお!」
 忘れもしない初代ガンダムの第一話でアムロが手にしていたV作戦のマニュアルを模したバインダーである。
「こ、これを持って会議でプレゼンしてぇぇぇ!」
 ブルースの絶叫がアニメイトに響く。
 気が付くと我々はアニメイトで三時間近くも過ごしていたのである。

ススム
モドル